Lesson 6 激辛! カレーと人付き合い

033 「本格インドカレー屋さん」

「――本格インドカレー屋さん?」


 私の言葉に、ナオがこてんと首を傾げた。

 放課後の教室、さっさと帰る子と駄弁ってる子は半々くらいの割合だった。

 帰り支度をしながらだから、私たちはその中間といったところ。


「そうなの。修行で行かなきゃいけないんだけど、一人で入るのはハードル高くて……」


「……まあ、確かに入りづらいのは分かるなあ。ボクはまだ行ったことないけど」

 

「そうか? ああいう店はどこもフレンドリーじゃが」


 ……違うクラスのアケノがしれっといるのはなんでだろう。気にしてもしょうがないけれど。

 そうなんだ、行ってみたいなぁとナオが頷く。こっちは違和感すら抱いていないみたい。

 

「ボクからしたら、そもそも魔女の修行でっていうのが謎だけどね。リズ、なんでなの?」


「うーん……要するに地域交流? らしいけどよくわからない」


「魔女のイメージアップじゃな。ワシの修行は清掃ボランティアじゃった」


 そっちのほうがわかりやすいなぁ……。

 でも師匠はママだし、私は弟子。他所様と比べてケチつけても仕方がないよね。


「それでね、どうかな……今週の日曜日とかは……」


「ボクは空いてるよ! 皇さんは?」


「無論、空けるに決まっておるわッ!」


「いやあの、予定あるなら大丈夫だよ……?」


「安心せい、そもそも無いッ!」


「……じゃあ今の会話何だったのよ」






 日曜日はいい天気に恵まれた。

 着いたのは五分前なのに、待ち合わせの校門前にはもう二人が立っていた。


「――――お待たせ! 待たせちゃったかな」


「うむ、待ったぞ!」


「皇さん、そこは今来たとこって言うところだよ」


 ナオの言葉にアケノは顎を揉んで――。


「そうなのか? では今来たところじゃッ」


「いや遅いよ――――ってこれ私が言うセリフじゃなくない!? 逆だよっ!」


 というかナオも何を吹き込んでいるの!

 私ががーっとまくし立てると、いやぁ皇さん魔女だし、常識に疎いって話してたからさぁ……と苦笑いするナオ。

 

 それはアケノだけです。

 私まで常識がないみたいに言わないでくださいっ。


「じゃあじゃあ、みんな揃ったことだし早速行こう! リズ案内お願い!」


「う、うん。ナオなんかテンション高いね?」


「そりゃ初本格カレーだもの、楽しみにしてたんだー!」


 誘った私よりノリノリなナオ。

 ぐっと手を引っ張って急かしてくる……しっかりした手……うへへ――――。


 パァン!


「痛ったあ! いきなり何すんのよ!」


 頬に弾けたような痛み。

 アケノがいきなり平手打ちしてきた――!?


「ふん。腑抜けた顔に喝を入れてやったのじゃ」


 そっぽを向くアケノ。

 私は頬を押さえながら、その横顔を睨み付ける。


「腑抜けてないし! てかいきなり平手打ちなんてっ」


 パァン!


 今度はアケノが頬を抑えた。

 呆然と私を見る――いや私じゃないし!

 むしろこっちが呆然とする。

 ナオがアケノを平手打ちしたのだ。


「皇さん、むやみに人の頬を張ったら駄目だよ。……痛いでしょ?」


「…………痛いのじゃ……」


「うん。じゃあリズに謝って」


「……理珠、すまんかった」


 しおしおとなるアケノ。

 う……まあいいけどさ……。


「なんでいきなり叩いたりしたのよ?」


「それはその。理珠がナオに手を取られて、照れていたからじゃ……」


 なんだそりゃ――ってか照れてない!

 照れてないもん。


「ワシは嫉妬してしま――」


 パァン!


「――――」

「――――」


 私とアケノは、呆然とナオを見た。

 ナオが自らの頬を張ったのだ。


「――――――なんで?」


「いや、ボクも皇さんに平手打ちしたから。これで恨みっこなしでしょ」


 えぇ……。

 理解できなくもないけど……私には奇行に走ったようにしか見えないよナオ……。


「ほら、二人とも早く行こ!」


「ぬ、また理珠の手を……ワシもじゃッ!」


「痛い痛い引っ張らないで――というか道違う! 逆っ!」


 アケノとナオに引きずられながら、私の修行は始まった。

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