032 「五つ目の基礎魔法」

「……冗談じゃ、理珠はワシの器には収まらんと言ったじゃろ。先輩も後輩もないわ」


 ――綺麗にオチが付いたと思ったらまだ終わってなかった……。

 珍しくアケノが常識的で、いいことばかり言う。

 ちょっと反応に困る。


「そ、そう……」


「じゃがまあ、少しばかりセンパイなのは間違っておらんな! 全ての基礎魔法を習得した理珠に、センパイからもう一つ教えてくれよう!」


 くるり、杖を回すアケノ。

 こそ、と私に囁いた。


「……五つ目の基礎魔法、知りたくはないかや?」


「えっ」


 五つ目……? 基礎魔法って四つのはずじゃ。

 ぱらぱらと魔導書をめくるも、五つ目があるという記述はどこにも書いていない。

 ――どういうこと?


「知りたいけど……そんなのがあるの?」


「ある。皇家の秘伝じゃ」


「……それ教えちゃだめなやつじゃ」


「どうせ次の当主はワシよ。問題なかろう」


 情報リテラシーは完璧に無視された。

 中学生は低いと言われてるけど、案外本当なんじゃないか。もちろん私は違うけど?


「……じゃあ、教えてほしいな」


「よろしいッ! では杖を掲げよ!」


「ほいっ」


「四大要素、土、水、風、火――それらすべてをひとつにまとめる。いわば基礎魔法の集大成じゃ。……できるかや?」


「うん。できるよ……!」


 なかなか難しそうだけど、今の私なら。

 四つの魔法を習得して、極意まで教えてもらった今だったら!


「すぅ――――よしっ」


 ――杖先が小さく、円を描きだす。

 淀みなく、一定のリズムで。

 くるりくるりと、ノリノリで。


 魔力が吸い寄せられるように、集まってくる。

 どこか楽しげに、ぴよぴよ跳ねて。


 そして今までよりも、ずっとたくさん。

 

「良い、良いぞ理珠! その調子じゃッ!」


 えへ。

 楽しい。

 楽しいし、嬉しい!

 空へ向けた杖の先、私の頭上で、魔力が一つになっている。

 見なくてもわかる、とても大きくて、とても強力な――――。


 ――――――あれ……それってちょっとやばくないか。


 私は上を向いた。

 大玉転がしの玉くらいの、大きな光球が出来ていた。


「……アケノ。これ、このままやってて大丈夫なの?」


 なんかバチバチジュージューいってて、見るからに危なそうなそれを見ながら、アケノはふむ――と顎に手を当てる。


「――――まさかここまでいくとは」


「えぇ……そもそもこれ、どういう魔法……?」


「基礎四大魔法を生みだす魔法とするなら、五番目はそれらを滅ぼす魔法じゃ。触れた物の生命を刈り取る、基礎殲滅魔法『怒り』――しかし最初からこの規模とはッ!」


「なっ――なんてもんやらせとんじゃっ!!!」


 めちゃくちゃ危険じゃん!

 致死性の攻撃魔法じゃんっ!!!

 しかも名前がおっかない!

 

「ややややばい、手がプルプルしてきてるっ! 限界来てるよ、どこかに撃たなきゃだよ!!!」


「お砂場じゃ、お砂場に撃つのじゃッ!」


 お砂場っ!?

 確かに誰もいないけど、いくつか置かれたおもちゃが見えた。小さい子が忘れていったのかも……って!

 あぁプルプルがガクガクにっ!!!


「大丈夫じゃ、無機物には無害じゃ! 早う撃てッ!」


「うっ……うわぁあああァァァっ!!!」


 私は思い切り杖を振った。

 白い光は、ヴン……と飛んで砂場に落ちて――。






 ――――――Dies Irae, dies illa solvet saeclumダビデとシビラが証言したように in favilla teste David cum Sybilla全ての世界を灰に帰すべき その日こそ怒りの日――――――♪





  

「……怖い! なんか神聖なメロディーが流れ出してるっ!」


「グレゴリオ聖歌『怒りの日』じゃな」


 ――――――BGM付きの魔法って何よ……。

 ギラギラギラギラ、砂場を包み込む白い光。

 たっぷり三十秒ののち、ようやく収まった。


 ……と思ったら。


「り、理珠ッ! あれを見よ!」


「えっ、えっ、あれって……ゴブリン……?」


 砂の中から、小さな緑色の生物が這い出てきた。

 けれど杖を向ける間もなく、塵となって霧散してしまった。


 ――。


 ――――。


 ――――――。


「……なんで砂場にゴブリンが埋まってるのよ!?」


「おおよそ子供たちが埋めたんじゃろ」


「ほんとに? ゴブリンめっちゃ弱いじゃん……」


 




 

 ――――さて、スタンプのほうといえば。



 (済) 基礎四大魔法の習得


 

「うん、達成してる。よかった!」






(――――――――Lesson 6へ続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る