031 「ラァジレェェェエエエエ」
私は再び杖を構える。
リズムかぁ……ノリノリで、か。
ううむ……。
「ノリノリでって言われても……」
「一番簡単なのは指揮者のマネじゃ! 四拍子とかいろいろあるじゃろ、あれでやってみよ。やったことあるじゃろ?」
「……そういえば音楽の授業でちょっとやったかも」
記憶を探って、指揮棒の振り方を思い出そうとする。
確か一回たーんって跳ねて、あっちいってこっちいってぴょんって跳ねるんだっけ……。
「ってそれ円じゃなくない?」
「確かにな。では二拍子はどうじゃ? 頑張れば楕円にはなるじゃろ」
適当だなぁ……まあそれでやってみるか。
私は目を閉じて、杖を動かす。
くいっ、くいっとスナップを効かせて――。
「――――――スゥルマァレェールゥチカー!」
「うわあっ! いきなりなに!?」
「『サンタルチア』じゃ。音楽の授業でやったじゃろ」
「曲名聞いたんじゃないよ! なんで歌い出したのかって聞いてるのよ!」
「ノリじゃッ、気にせず続けよ!」
気になるわ! めっちゃ気になるよ!
でもアケノが歌い止む様子は微塵もない。
……私は諦めて杖を振るう。
「プラーチィダァエロンダァー! プロースペーロエルヴェントー!」
声が大きい上にめっちゃカタコトだな!
――じゃなくて! 集中、集中……。
杖先から伝わってくる、明らかに今までと違う感覚。
揺れるような、うねるような、それを小さく圧縮して――。
「ヴェアニィテア、ラァジレェェェエエエエ――」
「いっけぇ!!!」
叫びとともに、私は目を見開いた。
白い筋が一つ、杖先から空へと伸びていた。
そして上空で霧のように広がって、きらきらと虹がかかる。
――――水あそびの魔法が、成功していた。
「や、やったぁっっっ!!!」
私は飛び上がって、それからアケノを振り返る。
「ねぇ見た、見てた!? ありがとうっ!!!」
「うむ。じゃがサビでもなんでもないところで撃つのは芸が無いの!」
「わかった、次はサビで撃つようにする! ――――いや待った、私は別に歌わないから」
危ない危ない、アケノのノリに乗せられるところだった。
……でも。
今回はアケノのおかげだ。
私はぺこりと頭を下げる。
「――ありがとう。アケノのアドバイスがなかったら上手く出来なかった」
「なに、気にするでないッ!」
「それと、ごめん。ひどいこといろいろ言っちゃって……」
「理珠は初心者じゃろ。未熟ゆえ落ち込むのも、思わず人に当たってしまうのも仕方のないことじゃ。まぁ褒められたものではないが」
ワシもデリカシーがなかったやもしれん、せいぜい気を付けよう。
深く頷くアケノは、いつものワガママな感じは全然なくて、むしろ大人びた雰囲気をまとっていた。
皇家では多分、幼い頃から修行を始めるのだろう。同い年ではあるけど、私はまだまだアケノにかなわないみたいだ。
魔女としての腕も、心構えも。
「……アケノセンパイ、だね。魔女に関しては」
「――ワシだってまだまだ未熟じゃ、気にするで……いいや。ほうほうなるほど、センパイ……ワシが理珠のセンパイ……」
………………ん?
なんだか嫌な予感……。
「ならばセンパイ命令ッ! ワシと✕✕✕!」
「だぁーっ! 最後の最後で台無しだよ!!! そこは気にするなって締めるところだよ!!!」
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