029 「できるっしょー」
結局その日は、一度も上手くいかなかった。
諦めて家に帰る。
夜ごはんを食べていたら、まぁ明日はできるかも――なんて気がしてきた。
そうだよ! 今日は調子が悪かったんだ。
杖だって初めて使ったし?
それに四つのうち三つはマスターしたもん。初日に飛ばしすぎたんだよ。
「……明日にはぁ、できるっしょー」
できるっしょぉぉぉ――。
お風呂に浸かりながら、気が抜けた声が返る。
ちゃぷ、とお湯が頷いた。
……頷いたはず、だ。
次の日の放課後も、その次の放課後も、私は公園に入り浸った。
肩慣らしで三つの基礎魔法を使い、それから水あそびの魔法を試す。
腕が上がっていることは、ひしひしと実感できた。
――土あそびの魔法。
始めて三日が経った頃には、歴史の資料集で見た比叡山延暦寺のミニチュアを精巧に作れるまでに!
――火あそびの魔法。
三日も経てば、一瞬で延暦寺を焼き討ちできる高火力!
――そよ風の魔法。
炭と化した残骸を大気圏まで吹き飛ばし、火あそびの跡なんて塵も残さない!
……それなのに。
水あそびの魔法だけは、てんで駄目なままだった。
「――リズ、大丈夫? あまり顔色よくないけど……」
……ナオはこういうの、ほんと鋭い。
大丈夫大丈夫! と笑顔を貼り付けて、ぴらぴらと手を振る。
これは修行だし、問題は魔法そのものだ。
ナオに迷惑かけたくないし、巻き込んだところで手持ち無沙汰にさせちゃうだけだろう。
ナオは何か言いたげだったけど、ぽんと私の頭を撫でて――うへへぇ……それから廊下へ出ていった。
やっぱり顔が良い。
……ううん、顔もいい。
初恋キラーは伊達ではない。[要出典]
「――理珠はおるかッ! ゴブリンじゃが――――なんじゃその顔は」
「……なんでもないよ。それよりゴブリンどうなったの?」
「それが依然として脱走中じゃ。どこで道草食ってるのやら、さっさと襲いにくればよいものを」
まだ捕まってないんだ……。
やっぱり不安だけど、アケノは返り討ちにする気まんまんでぶんぶん腕を振った。
自信があるならまぁ、大丈夫か。
「一応、理珠も警戒しておくのじゃ。近頃のおぬしは空元気気味、鈍くなっておるからな――まぁワシから深くは聞かぬが!」
ばし、と背中を叩かれた。
――アケノにも気付かれてたのか。
「――――はっ、はっ、はぁっ……!」
思わず地面へ膝をつく。
小さな雫が、ぽたりと落ちた。
杖先からではなく、顎からだ。
生体活動に先を越されるってどういうことよ!
私は恨めしげに杖を睨む。
ちょうど彫られたJが見える。
「……Jって努力を実らせるルーンじゃなかったの? なんで雫すらできないわけっ? この杖じゃだめなの!?」
歯を食いしばって立ちあがる。
もう一度、これで駄目なら魔女やめてやる。
「おりゃあ! 出せよ! 水っ! 持ってんだろ? 水! 跳んでみろよっ! ビシャビシャビシャっ!」
やけになって思いきりぶんぶん振り回して、なんとか絞りだそうとしていたら――――。
「…………それでは出ぬ」
背後でざすっと音がした。
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