028 「うわぁ駄目駄目」
公園の真ん中で、大きく深呼吸をする。
リュックはベンチに置いた。
箒はその横に立てかけた。
よし。
スカートに挟んだ杖を引き抜く。
夕陽を浴びて赤く輝くその先を、目の前の地面へ。
くるくると円を描くように回しながら、先端に魔力を集めるイメージを思い浮かべると――。
「う、動いた……」
わずかに砂が盛り上がった! ……けどすぐに元に戻っちゃった。
「土」の基礎魔法。それは土を自在に操るというもの。
自在とはいえないけど、干渉はできた。初めてにしては上出来じゃない?
やっぱり杖の出来がいいからだ。なんたってママとムラクモさんのお墨付きだもん!
私はスキップしながらベンチに戻って、リュックから魔導書を取り出す。
もう一度、やり方をおさらいしてからやってみよ!
「土いじりの魔法 難易度∶0」
呪文∶なし
①杖で円を描きながら、地面の魔力を集める。
②集めた魔力で土を操る。
リバウンド∶むくみ、倦怠感
注∶円を描く際、ゆっくりと長く回すほど操ることができる土の量を増やすことができる。
――――――――――――――――
「なるほど……もっと長く回してみるか」
ぱん、と閉じてもう一度。
今度は大きく、真ん丸な円を描くように。
集まれ集まれと何度も何度も――。
グモォ。
「…………?」
ドゴッ。
「………………???」
土 土土 土砂土砂 土土
砂 砂砂 土 砂砂
土 砂
砂土砂土 土
土 砂
砂 砂土砂土
「――うわぁ駄目駄目っ!!!」
足元ごと浮き上がりかけて、私は慌てて杖を下ろした。
ずんっと微かに、重い響き。危ない危ない……。
「……次はっ! 次こそ――」
杖を構え直す。
手を回しながら目を閉じる。
思い浮かべるのは、土を一箇所に集めるイメージ。
――集中、集中……。
――――見える……魔力の流れが見える……。
――――――圧縮して、好きな形に成形して……。
――――――――そういえばアケノ大丈夫かな……ゴブリン捕まえられたかな。
――――――――――いけないいけない、気を散らしちゃ……よし。
私は杖を下ろした。
目を閉じていてもわかる。魔力は一箇所に集まっていて、安定している。
うまくいったはずだ。
成功していれば、高尾山で会った柴崎さんの土像ができているはず……!
「……なむさんっ!」
思いきって瞼を開けた。
目の前には、とても精巧なゴブリンの土像。
「いらない!!! 燃えろっ!!!」
思わず、ぐるんと杖を振り回して叫ぶ。
オレンジ色がどぱっと噴き出した。
「――――っ!? やばいやばい消えろっ!!!」
……まさか本当に燃えるとは思わないじゃん!?
慌てて吹き飛ばして、ふぅと一息ついてみれば。
「………………あれ、今の風って杖から出てた……?」
「土いじりの魔法」「火あそびの魔法」「そよ風の魔法」。
基礎四大魔法、そのうち三つを習得した私は、最後のひとつに取りかかった。
水属性の基礎魔法、「水あそびの魔法」。
それは空気中の水分子を抽出し、ひとまとめにして操る魔法。[出典∶魔導書]
水という言葉は液状のもの全般を指す。[出典∶wikipedia]
けっこう使い勝手がよさそうな魔法だ。
……まぁ火も風も、さらっとマスターした私ですし?
水だって楽勝でしょ! お茶の子さいさいのさいよ!
杖を立てて、くるくる回す。
ひとつにまとめて……あ、もうちょっと大きく回そ。
よしよし……どうだ!
自信を込めた眼差しで、私は前を見た。
無 無無無無
無
無無無無無無 無無無無無無
無 無 無
無 無 無
無 無 無無
「――――――なんでっ!?」
そこにあったのは無!
何も起こっていない、無!
雫ひとつすらできていない。
こんなのおかしいじゃん!
私には楽勝のはずなのに……。[要出典]
お茶の子さいさいじゃなかったの? [要出典]
もしかして私が魔女に向いてないの?
ママとかアケノみたいに変人じゃない、まともな人間だから――――? [要出典][誰が?]
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