025 「オーガニックで健康にもいいにぇ」

「理珠ちゃん、誕生日はいつ?」


「八月五日です!」


「ほう、ならばハシバミがいいかにぇ……」


 植えられている木々の間を縫うようにして、私たちは進む。

 見たことのない木がたくさん。私はサクラくらいしかわからないけど、色とか生え方とか、明らかに異質なものがいくつかあった。

 

 薄茶色の細い幹がばすばす伸びた、これまた初めて見る木の前でムラクモさんが立ち止まる。


「これだにぇ。ハシバミ――俗に言うヘーゼルナッツの木。八月五日から九月一日生まれの守護樹木だにぇ」


「ヘーゼルナッツ……? この木になるんですか?」


「そうだにぇ。去年採ったやつがレジ横で売ってるにぇ。一袋三百円だにぇ。賞味期限も長いにぇ。オーガニックで健康にもいいにぇ――」


「理珠、あなたナッツ類苦手じゃなかったかしら」


「あっ、そういえば」


「そうかにぇ……」


 しょぼんとなるムラクモさん……なんかごめんなさい。

 だけどそこは社会人、すぐに気を取り直して説明を再開してくれた。


「うほん――ではまず、相性を確認してみようかにぇ。枝を優しく握ってみるにぇ」


「……こうですか?」


「そうだにぇ。どうだにぇ、感じるかにぇ……触れた指から伝わる温かさ、瑞々しい生命のエネルギーを――」


「あの、冷たいです」


「にぇ?」


「それになんか固い……樹皮が指に刺さるような……」


「――ふむ、どうやら相性は最悪のようだにぇ?」


「それになんか伝わってくる……これはこの木の気持ち……? ――なんだろう、実がなったそばから採るのやめてもらっていいですか? それってあなたの都合ですよね? あのぅ、間引きって収穫じゃないんですよ。実は乱獲なんですけど――」


「このハシバミ、まだ去年のことを根に持ってるのかにぇ! 仕方ない、今年は収穫量を半分に……いや三分の二……いや五分の四に減らすかにぇ……」


「その減らす量にエビデンスあるんですか? ――――はっ!?」


 なんか精神乗っ取られてた……?

 おそるおそる顔を上げると。


「……理珠ちゃんにハシバミの木は合わないみたいだにぇ」


 ふるふる、ムラクモさんが首を振っていた。

 

 さぁーっと青ざめる私。

 守護樹木とか言ってたよね……それが合わない、ってことは。

 もしかして私、杖なし魔女に……?


「――大丈夫よ理珠。そうでしょう、ムラクモさん?」


「その通り! 誕生日はあくまで目安、全然関係ない木を選んでも問題はないからにぇ! 気になる木を選べばいいにぇ」


 な、なあんだ……。

 

 視界がぱあっと明るくなって、飛び込んでくる木々の色。

 見回せば、いろんな緑が咲いている。

 薄い緑、黄緑、緑茶みたいで苦そうな緑――うわ、もっと濃いのもある。


「…………あれって」


 その暗い緑の木は、流石に知っていた。

 つんつんした小さな葉っぱ、三角コーンみたいなシルエット。

 てっぺんに星の飾りを付けたくなる――。


「クリスマスツリー、だよね……?」


「ほうモミの木と……! お母さまよ、お嬢さんはなかなか見る目があるにぇ!」


 大げさに頷いている大人二人。

 なんだ? と首をかしげる私に、ママはそっと教えてくれる。


「モミはね、特に魔力がある木なの。杖にするにはぴったりってことよ!」

「だにぇ!」


 ……仲いいなこの二人。

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