024 「あれはね、アンチエイジング」

 昼間だというのにしん……としている静けさの中、足音がざくざく耳に残る。

 ときおりがさがさと木々が揺れて、私はその度に振り返ってしまう。


 ――怖いよ……。


「びくびくしてないの。着いたわよ」


 ママの声で、無理やり視線を元に戻すと――。

 

 木々がぱっと開けていた。

 その中心にぽつんとあるのは、板が張られた白塗りの小屋。

 お店には見えない……木こり小屋って言ったほうがしっくりくる。

 

 ――でも少しかわいい。


「えーと? あぁ、これねー」


 なんの迷いもなく、ドアの横の紐を引っ張るママ。

 その先にはキツツキのおもちゃが付いていて、コンコンとドアを叩く……へぇー、こんなのあるんだね。

 ドアの向こうでがたっと音がして、ママがすーっと息を吸い込み――。


「こんにちはー! 大将やってるー?!」


 それ居酒屋に入る時のやつじゃ――――。


「ハァイやってるにぇー! へいらっしゃーい!」


 ――合わせてきた!? ママのノリに!?

 前代未聞だ……てっきり滑るものだと思っていたのに!

 ぎぃ、とドアが開く。ママの背中越しに、私は恐る恐る覗き込んで――。


「……ええっ!?」


 思わず間抜けな声をあげてしまった。






「お客さん魔女だにぇ? サバト魔女集会用の枝をお探し?」


「サバトなんて今どきだれもやってないわよ、せいぜいサイゼでごはん会が関の山だわ。それよりね、今日は杖用の枝を買いに来たの――」


 ドアが閉まるなり始まった商談。

 初対面なのに、なぜか魔女だってことはバレて……ああ箒担いでるからか。だからなのか、やけにフランクな会話だ。

 でも私が気になってるのはそこではない。


「――この子の初めての杖なのよ。ちょうどいい枝はあるかしら?」


 ぐい、と背中を押されて前へ出る。

 真正面で紫色の瞳が、愉快そうにくりんと光る。


「は、はじめまして……」


「これはこれは、活発そうなお嬢さんだにぇ。あたいはムラクモ、もちろん偽名にぇ。お名前は?」


「理珠です……え?」


「理珠ちゃん、可愛い名前だにぇ! あたいのことはムラクモさんとでも呼ぶにぇー」


「あの……偽名、とは」


「ん? あぁ、あたいの家系は人前で真名を明かさないしたきりでにぇ。悪いが勘弁してにぇ」


 ムラクモさんは手をひらひら降って言う。

 私の胸のあたりで、だ。


 私が気になっていること。


 ――それはムラクモさんが、中二の私より背が低い……いやそれどころか、小学生にしか見えないほど幼い姿なことだった。


「杖の材料は新鮮なものに限るにぇ! ついて来るにぇー」


 私の困惑には全く気付かず、ムラクモさんがドアを開ける。

 その隙についついとママを引っ張り、あの人小学生なの? と囁くと。


 ママは楽しそうに笑って教えてくれた。


「……あれはね、アンチエイジング。あの貫禄だと五十は超えてそうねー」


「んな訳あるかっ!? 背まで低くはならないでしょっ!」


「それがね、なるのよ。――魔法なら」


「…………うん、そっか。なるほど」


 魔法ならなるかぁ。深く考えても無駄だぁ。

 私はもうどうでもよくなって、ムラクモさんを追いかけた。


「ちなみにあの語尾は? あれも魔法の効果なの?」


「…………キャラ作りは個人の自由よー」

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