023 「Kポックがブームらしいのよ」

「え……UMA……?」


「ちょっと理珠、失礼でしょう! ごめんなさいね、この子まだ修行中で……」


「いえ、大丈夫ですヨ。わたしも慣れておりますかラ」


 なに? …………なに? ………………なんなんだ……?

 流暢な日本語を話す生物を見て、頭をハテナがぐーるぐる。

 大きさは三十センチくらい。人型で直立二足歩行、一本下駄を履いて、黒い被り物をしていて、髪を後ろで結んでいる。

 背丈を無視すれば、女の人のように見えるけど……。


「理珠、この方は天狗の――」


「天狗じゃないでス。コロポックルと天狗のハーフでス」


「あら失礼。天狗とコロポックルのハーフの柴崎さんよ」


「初めまして、コロポックルと天狗のハーフの柴崎でス」


「ど、どうも……雨宮理珠です……」


 この生き物は、柴崎さんという名前らしい。それと「コロポックルと天狗」のハーフらしい。

 コロポックルが先じゃないと許せないらしい。


 ……同じでは? ツッコむのそこじゃないか……。


「――彼らの間では今、Kコロポックがブームらしいのよ。だから憧れてるんじゃないかしらねー」


「そうなんだ……」


 ママが小さな声で教えてくれる。

 ――って、そうだ! ワラビ!


「もしかして、ワラビはその……柴崎さん、からもらったの?」


「そうそう、おすそわけで頂いたのよ! 原住民の方も自然の一部だもの、彼らがワラビを採ったって問題ないわ」


「そうなんですヨ。まぁ我々の存在はあまり知られてないのですけどネー」


「そうなんですか……」


 柴崎さんは頷いて、籠をよいしょと背負い直す。


「――ではわたしはこれデ。ワラビ、アク抜きしてくださいネー」


「ありがとう柴崎さん! いいお店も教えてもらったし、本当に感謝だわ!」


 しゅっと片手を上げて、柴崎さんは草木の間へ消えていった。

 

 うーん。まだ混乱しているな……ん? お店?


「――ママ、お店って?」


「庭木屋さんよ! それも魔女がやってるところ!」


 そう言いながら箒にまたがるママ。どこから出したのか、ワラビはビニール袋に入れられてバッグにしまわれた。


「――――このまま下山するんじゃないの?」


 ちょっと楽しくなってきたところだったのに……。


「何のためにここへ来たの? 杖を作るためでしょう! ほら、行くわよ!」


「はーい……」


 名残惜しさを感じながら、私はおいしい空気の中へ飛び出した。






「本当にここ、お店……? ママ住所間違えてない?」


「えぇと――うん、合ってるわね。間違いなくここよ」


 どう見ても森なんだけどな。

 腰に手を当てて、私はうへぇ……とへの字口。

 ちょっと薄暗いし、入っちゃ駄目そうな雰囲気がぷんぷんしてる……。


 それなのに箒をぶるんと振って、クモの巣を払いながら歩きだすママ。


「待って、勝手に入っちゃ駄目なんじゃ? なんだか怖いし……」


「大丈夫よー! 魔女は薄暗いところを好むのよ? 理珠も慣れなきゃ駄目よー」


 ………………。


 ……………………あーもうっ!


 私は箒を構えながら、ずかずか進むママを追いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る