Lesson 4 杖を求めて! ウィッチクラフト 

021 「日本遺産認定」

 土曜日。私は空の上にいた。

 

「理珠の杖を作りに行くわよ! 明日!」と言われたのが昨日の夜のこと。

 あわてて服を選び、言われるがままに準備をして、早起きしてすぐ出発。朝ごはんはホットサンドだった。


 よくよく考えれば、どこへ行くのかも聞いてない。

 まさかロンドンとか言わないよね? ハリポタの世界みたいに……流石にちょっと遠すぎるけど。

 でもそうだったら、ちょっとわくわく。

 

 まだ登りきっていない太陽に照らされて、きらきら光るママの金髪。

 そこから十メートルくらいの距離を保って飛ぶ。

 前かがみになって、速度を少し上げて…………怖い。


 怖いっ! ママめっちゃ飛ばしてる!


 ――優雅な横乗りは早々に諦めた。あの乗り方は、速度が出てくるとすごく怖いのだ。だからバイクと同じように、股に箒の柄を挟んで乗っているんだけど。

 それなら安定感があるから、速く飛んでもまだましなんだけど……。


「――なんでそこまで前傾姿勢になってるのよっ!」


 ママの速さは私の想定を越えていた。

 顔を柄にぴたりとつけて、お尻を突き上げて、横から見ると直角三角形みたいなポーズで飛んでいた。

 あれだ、多分空気抵抗を極限まで減らすためだ。自転車レースでよく見るやつだ。


「――どうしたの理珠。遅れてるわよ?」


「ママがスピード出し過ぎなのっ!」


 するすると速度を緩めて横に来たママに、私は叫ぶ。そもそもどこに向かってるの? と聞くと、ママは遠くを指差して――。


「――高尾山よ」


 高尾山は東京都八王子市にある標高599メートル(m)の山。Wikipediaより。


「――え、何で?」


「パワースポットだからよ。魔女はそういうのを重視するの。それにほら、あそこを見てご覧なさい」


 今度は下を指差すママ。

 その先には小学校があって、塀に垂れ幕が下がっていた。目を凝らして読んでみると――。


「『日本遺産認定 霊気満山 高尾山〜人々の祈りが紡ぐ桑都物語〜』? なんか変な宗教みたい……」


「余計なこと言わないの。まぁそういう、文化庁が認定したトレンディな山だってことよ」


「……それ、何か関係あるの?」


「特にないけどね」


 ないんかい。






「そういえばママ、登山の準備なんてしてきてないよ? 初心者にも優しい山って書いてあったけど、さすがにスニーカーじゃ……」


「理珠。あなたは魔女でしょう? 何のために空を飛んでいるの? 頂上まで飛んでいくためでしょう」


「いや違うと思うけど」


「とにかく頂上のビジターセンターに行きましょう。枝を採るのだから、一声かけていかないとね」


 登り口に集まったカラフルな服装の登山客を尻目に、ママはすいすいと飛んでいく。

 すっごくズルしてる気分だ。ごめんなさい。



 ――あれ。

 Wikiに高尾山は国有林って書いてあったよな。

 植物を採っちゃ駄目なんじゃ……。

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