019 「リザって誰よ」

 頭にとん、と軽い衝撃。

 痛くはないけど。


「急にかけないでよ……今度は何の魔法?」


「『閃きやすくなる魔法』じゃ! これで解決策を思い付きやすくなるじゃろッ」


 ムフー、とアケノは胸を張る。

 ふー、と私は安堵のため息。助かった、奇想天外な魔法じゃなくて……しかも割と有能そうな名前だし!


「……それ、ほんとに効果あるの?」


「もちろんじゃ、試しに……そうじゃな、この消しゴムについて思考を巡らせてみよ」


 興味津々なナオの問いに、自信満々で答えるアケノ。

 私は言われた通り、アケノの消しゴムをしげしげと観察する。


 使い込まれた普通の消しゴム――丸く角が取れちゃってるし、白いから汚れが目立つな……あ!


「元から黒ければ、汚れても目立たない!」


「うむ、もうあるがな」


「あと……そうだ、元から細長い形なら、角が取れても狙ったところを消せるじゃん!」


「それもあるがな」


「確かにぽんぽん閃いてるけど微妙だねー」


 ナオ、ずばっと言うじゃん……。

 確かに閃くアイデアは微妙だけど、でもすごい効果だ。

 自然とクリエイティブシンキングになっちゃう!


 あっ! また思いついた!

 消しゴムといえば、スリーブの下に好きな人の名前を書くやつがあったよね?

 私はくふくふ……とスリーブをずらす。

 ほらなんか書いてある! もー、いくら私が好きだからって、困っちゃうな――――。



消  消   消  消  消消

消  消  消消消消消消 消消

消  消   消  消

   消      消

  消       消

 消       消


 

「――――――リザって誰よ!」


「リザといえばリザ•デル•ジョコンド以外に誰がおるのじゃ? 女性美の極致とも言われる女性じゃ、憧れじゃろ!」


「聞いたことないよ!」


「モナ•リザを、まさか理珠は知らぬのか?」


「それならモナリザの人って先に言ってよ!」


 モナ•リザ、すなわち私のリザという意味じゃ――あぁよいのう……。

 うっとりと呟くアケノ。


「なあモナ•リズよ」


「勝手に私を所有物にしないでくれない? 友達をモノ扱いしちゃだめなんだよ?」


「――! 確かにそうじゃ……ワシが間違っていた……」


「……このやり取り、昨日もやらなかった?」


 そんな私たちを愉快そうに見ていたナオは、そう言えばさ、とアケノに尋ねる。


「魔法かけるんじゃなくて、普通に解決策考えるんじゃ駄目だったのかな? ボク、それなら空気にならずに済んだんだけど」


「うむ、それでは駄目なのじゃ」


 アケノはチッチッと指を振る。

 

「魔女修行なのじゃからな。解決法が他人のアイデアじゃ駄目なのじゃ。自ら思いつかんとッ!」


「確かにね……流石皇さん、同じ魔女なだけあるね!」


「じゃろー? おぬしもなかなかいい奴じゃな、流石は理珠の友なだけあるわ!」


 いつの間にか意気投合してる……!


 好奇心旺盛なナオと強引ぐマイウェイなアケノ、二人がタッグを組むなんて不安感しかないよ……。

 そんな私の気持ちを和らげるアイデアは、なぜか全く浮かんでこないのであった。

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