018 「リズが言うとめっちゃ面白いね」

「困っているようじゃな、理珠ッ!」


「アケノ……待ってあなた……」


「うむ、見通させてもらった!」


 両手三角、ほぼ万物を見通す目――てかそれよりも!


「そっちじゃなくて語尾! もう戻ってるじゃん!」


「あー……そうじゃな。まあワシの腕もまだまだ未熟ということじゃ!」


「はぁ。もういいや……ってそれよりも! また勝手に私のこと見通して!」


「理珠は忙しいやつじゃな! 『それよりも』を連続使用とは! 読者がいたら混乱するぞよ、理珠!」


「この世界は小説じゃないでーす――どしたのナオ?」


 扉が開いた瞬間にばっと立ち上がったナオが、なぜか目を回していた。

 私とアケノを交互に見て、頭にハテナをいっぱい浮かべている。


「……なんか二人とも、仲良くなってない?」


「流石は理珠が惚れた女、察しがよいな。ワシと理珠は勝負の末に友情を結んだのじゃッ!」


 勝負じゃないけど。私が譲歩してあげたんだけど!

 まあいいけどさ。


「――じゃからおぬしに付け入る隙はないぞッ! 理珠はワシのものじゃ!」


「ボクはリズに男子だと勘違いされてただけだけど!?」


「二人ともちょっと黙って!」


 あわてて割り込む私。

 それにさっきから気になってたけど、アケノがわざとらしく名前を連呼してくる!


「……なーに、皇さんリズのこと好きなのー?」


「当たり前じゃ!」


「認めちゃうんだ!? ――――リズは知ってたの?」 


「――私も昨日知った……でも! 私そっちの趣味ないし」


「あは、リズが言うとめっちゃ面白いね」


 からから笑うナオ、頬を膨らませるアケノ。

 こいつら……。


「ときに理珠。悩みとはあの犬のことじゃな――ほうほう、ピットブルと。名前はMk.5、人呼んで『涼宮すずみやさんちのきょう五番ごばん』か。強靭な肉体と精神を駆使し、悪党どもには容赦しない、それはまさに狂犬武器庫――」


 三角にした両手を額に当て、つらつらと詠唱しだすアケノ。

 なんでそんなことまで知って……ってまた固有魔法!


「ちょっと何でもかんでも見通さないでよっ!」


「ムハハハハハ! 好意を隠す必要もなくなった今! ほぼ万物を見通す目は使い放題じゃッ! ほうほう修行でな? あやつを黙らせねばいかんのか。朝は失敗して、そのせいで今もバウバウバウバウと……」


「あー、やっぱりリズが関係してたんだ」


「アケノもうやめて!」


「やっぱり、リズが、関係してたんだ……? うん?」


「……ごめんなさい」

 

 ジト目で睨んでくるナオ、節操なく見通してくるアケノ、怒鳴ったり謝ったりで行ったり来たりの私。

 なんだこの混沌空間。


「……はぁ。もういいけどさ。友達なんだから相談してよ。魔法関係ないなら助けになるから」


 ……がっつり魔女修行の一環だけど……黙らせるだけなら魔法関係ないのか……? でもありがたいな。


「そうじゃ理珠、ワシにも頼れ。同じマジョ友なのじゃからな!」 


「昨日まで嫌がらせしてきてた奴にいきなり頼れるかっ! ……まぁでも。ありがと」


「ふん! ならば早速じゃが、理珠に魔法をかけてやろう。――ヒラメキーノ•シャキーン!」


「なにそのちょっと前の教育番組みたいな呪も……うぐっ」 

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