013 「カンナムタイッ」
がららっ!
次の日の朝、私は単身でアケノの教室に突撃した。
魔女たるもの、舐められちゃだめ。仁王立ちで胸を張って、前からは見えない程度につま先立ちして姿を大きく見せる。
動物の喧嘩と同じ。威圧感を与えるのだ。
「ムハハハハハ! どうした雨宮理珠! おぬしから来るとは珍しいッ」
がたたっ!
椅子を鳴らして立ち上がるアケノに、私はずんずんと歩いていってびしりと指を向けた。
「話があるの。放課後、屋上で待ってるから」
「ほう話とな! よかろ、じゃが屋上への扉は施錠されておるぞよ?」
「外から行けばいいでしょ、箒で(プロモーションを含みます)」
「ふむ……背後に箒会社の影が見えるな」
「あんたの魔法だよ!」
怒鳴る私に、くふふふと含み笑いをするアケノ。
「さては、耐えきれずに音を上げたか……配下になるなら解いてやるぞよ?」
「……とにかく、放課後! 絶対来なさいよっ!」
緑のフェンスで囲まれた、校舎の最上部。
夕日で赤く染め上げられた、何のためにあるのかわからないスペースに、私はすとんと降り立った。
ぴょおお、と寒風が吹き抜ける。
愛箒、「アン王女の復讐号」につけられた水玉の布がばたばたとなびく。アン王女と赤毛のアンが無関係なのは最近知った。
太陽を背にしばらく待っていると。
「ヌゥッフフフふふふ――――――」
階下から響いてくる高笑い。
スケボーみたいに立ち乗りで、ぎゅんぎゅんとアケノが飛んできた。
「―――――ぅぅぅぅぅぅううううううううううう
う
う
ふふふふふふふふふうううううう
ふ
ふ
ふ
はははははははは ッはははははッ!」
オゥッ
「あっぶない! 変な飛び方やめてよ!」
「ぶつかってないのだからよかろうッ!」
ぐいっと柄を立て急停止。
跳ねた箒を片手に収めて、ムンフと私の前に立つ。
「待っていたぞ雨宮理珠! ようやくワシの配下になる決心がついたと見えるッ!」
待っていたのは私なんだけどな……。
「さあ、言うのじゃ! 命乞いをしろ! 意志のありかを言え――」
「あんた、私のこと好きでしょ」
開口一番最大火力、出し惜しみなしだっ!
……。
…………。
………………。
……………………え、もしかして違っ……。
「――――な! ななななななッ! ナンナナナーナナーナーナー……ヘイ、カンナムッタイッ」
「無理にKポップみたいな鼻歌で誤魔化さないで……って古くないそれ?! ブーム一周遅れてるよ!」
……いけないいけない。
思わずツッコんじゃったけど、これじゃアケノの思う壺だ。
こほんと咳をして、――動揺したってことは図星だね? と畳みかける私。
「……なっ、何を馬鹿なことを言っておるのじゃ! ワシがッおぬしのことをッ好いているなどとッ……ばるしゅっ!」
「ばっちい! くしゃみしてから言いなよ!」
ふるふる震えているアケノ。
動揺しているからかと思ったけど、肌寒いのかもしれない。
ずびりと鼻をすすり、キッと私を睨みつける。
「勘違いするでないわ! ワシが好きなのはクジャクヤママユとハリガネムシに寄生されたカマキリくらいじゃッ!」
サイコパスなエーミールか? いやどうでもいいわ。
「勘違いじゃないもん。あんたの『ほぼ万物を見通す目』は好きな相手にしか使えない、そうでしょ」
「おッ……おぬし、なぜそれを……」
アケノの自信たっぷりな態度が揺らぐ。
私はその機を逃さず畳み掛ける!
「私ね、気付いちゃったの(30秒後にスキップ)。帰ってからは語尾が変になることはなかった――――学校でしか効果が出ない、つまり離れると使えないってことは、ほぼ万物を見通す目の効果範囲はせいぜい数百メートル。しかも発動中のそれを介しながらじゃないとゴビ•ガッヘンも発動しないということに!」
「ぴ、ぴったり三十秒じゃな……」
「揚げ足とらない! つまりは最悪あんたから物理的に離れれば、ゴビ・ガッヘンを解かなくても問題ないってこと!」
「ぐぬぬ……ッ」
「じゃあどうしてここに呼び出したのか? それは反撃するためよっ!」
「……そ、そうかそうか、つまりおぬしはそんなやつじゃったんじゃな」
ふざけないで。
私がキッと睨みつけると、アケノはくしゅくしゅと小さくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます