012 「小学生男子か」

「固有魔法」


 数百年単位で魔女の血を繋いできた家系には、生まれつき特殊な魔法を習得している子供が誕生することがある。

 この魔法を「固有魔法」といい、多くの場合本人にしか行使できない。ただし数世代後に再び発現した例はある。

 固有魔法は通常の魔法と比べて効果範囲が広く、強力である傾向があるものの、求められる代償も相応のものである。

 この章では現代までに確認されている固有魔法を紹介する。

 忠告しておくと――――――。



 ――――――――――――――――






「えーと『ほぼ万物を見通す目』は――――あっ、あった!」






「ほぼ万物を見通す目」


 離れた対象の様子や秘密などを見通すことができる魔法。両の手を三角形に組み、額に当てることで不可視の「第三の目」を開眼し発動する。

 

 神の目である「万物を見通す目」に限りなく近い能力を持つ強力な魔法であるが、人間に扱える下位互換のため制限も多い。

 具体的には一度に一つの対象にしか使用できない、見通せる期間も直近一年が限界、電波暗室やスカートの内部は見通せないことなど。


 また最大の欠点として、「本気で想いを寄せている対象」にしか行使できないことが挙げられる。

 例えばサイコロの出目を見通すためには、サイコロに恋しなければならない。



 ――――――――――――――――






「えっ……どういうこと……?」


 私は口をぱくぱくさせた。

 ついに明かされた衝撃の事実。アケノの固有魔法の弱点。


 ――それは、電波暗室とスカートの中は見通せないことだった。


 じゃなくて。落ち着け私。

 そう――――。


「本気で好きな相手にしか使えない」ことだった。


 ……好き?

 アケノが? 私のことを?


 嫌がらせしてきてたのって、もしかして。


「………………いや小学生男子かっ!」


 私は思いっきりため息をついた。

 ちょっかいかけてきてたってことだよね……やっぱり魔女っておかしいや。変人だわ。


 でもこれで弱みは握った。

 あとはこれをダシにして魔法を解かせればいい!


「ぐふふ……ムハハハハハ!」


 いけない、思わず高笑いが出ちゃった。

 明日が楽しみだ。変な語尾も明日までの命だ。魔導書を棚に戻して、私は階段を降りる。

 からんからん、とお鍋の音が聞こえてくる。


「――あら理珠、調べ物は終わっ……きゃあ!」


 リビングに入った私を見るなり、ママが悲鳴を上げて飛び上がった。


「え……なに?」


「びっくりした……洗面所行って鏡見てきなさい!」


 なんなの……そんなに変な顔してた?

 少しイラッとしながら洗面所の電気をつける。

 ぴかっと鏡に私の顔が――――。


「きゃあっ!!! ――――あぁ、かけっぱだった」


 瞳が縦に五センチくらい伸びていた。ネコ型ロボットの目みたいに。

 魔導書読むときに使った眼球拡大鏡の魔法、解くのを忘れてた……。


 ごめんねママ。私が悪かったです。

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