011 「燃えてきたよ」
魔導書は、「家庭の呪術」のとなりにあった。
ずざっと引き出してばららとめくる。目次を睨み付けながら、それらしい章を探す。
「『日常生活に役立つ魔法』……違う。『戦闘に関する魔法』……違うよね。『変態的な趣味の魔法』……なんてもの載せてんのよっ!」
――落ち着け私、本にキレても意味はない。
深呼吸ひとつして、ページを繰る。目次だけでも結構な量だ。
「『変になる魔法』……もしかしてこれかな」
やけにざっくりした章に目が留まる。
語尾が変になる魔法……あるとしたらここか。
「変になる魔法」
この章では、対象の身体的特徴や能力を乱す魔法を紹介しよう。
攻撃魔法と違って致死性は低いものの、かけられた対象が受ける精神的ダメージはそれなりに大きい。
そのため防犯、自衛目的での使用が主となるだろう。
一つ忠告しておくと、宴会芸としての使用は控えることが望ましい。酔って重ねがけをした結果、わたしは帰宅までに職質を二桁食らったことがある。
――――――――――――――――
「はいはい忠告好きだよね――――ってやっぱり実体験かっ!」
この著者、本当に信じて大丈夫なのだろうか。
効果が本物なのは、恋の魔法のときに分かったけど……。
頭をぷるぷる振って、読み進める。
載っているのはほぼ全て呪文で、おまじないはない。どうやら、「ガッヘン系統呪文」と名前がついているらしかった。
「歩行を変にする呪文 難易度∶3」
呪文∶アル•キカタ•ガッヘン
唱える際に、変な歩き方を強くイメージする。成功すれば、対象はたまに変な歩き方になる。効果は三日間んんん。
リバウンド∶集中が足りないと自分にかかってしまうるる。
「変顔にする呪文 難易度∶3」
呪文∶カオ•ガッヘン――――。
「奇人にする呪文 難易度∶3」
呪文∶アタ•マ•ガッヘン――――。
「語尾を変にする呪文 難易度∶3」
呪文∶ゴビ•ガッヘン――――。
「嫌なやつに唱える呪文 難易度∶なし」
呪文∶シンプル・に・変
注∶悪口。
――――――――――――――――
「――――最後のやつ魔法じゃないよね」
ふざけた魔導書だ。んんん、とかるる、とかタイプミスもあるし。
著者の顔が見てみたいよ!
私は腕組みをしてゴビ•ガッヘンの項目を読む。
「語尾を変にする魔法 難易度∶3」
呪文∶ゴビ•ガッヘン
唱える際に、変な語尾を強くイメージする。成功すれば、対象はたまに変な語尾になる。効果は三日間んんん。
リバウンド∶集中が足りないと自分にかかってしまうるる。
――――――――――――――――
「またタイプミス――ってコピペか! 校正仕事して!」
なんかリバウンドで潤ってる感じになってるし。
それはそれとして……。
――――解除方法どこ?
目を皿にして、どんな小さな文字も見えるようにして、もう一度文字をじっくり追う。
ページを戻して、初めの前置きから読み直す。
――この章では、対象の……。
――帰宅までに職質を二桁……。
――――三日間んんん……。
――――カオ•ガッヘン……。
――――――三日間んんん……。
――――――カラ•ダ•ガッヘン……。
――――――――三日間んんん……。
――――――――サクラダ•モン•ガッヘン……。
――――――――――三日間んんん……。
――――――――――爆乳機関車……。
――――――――――――効果解除について。
「これだ! すごく小さく端っこにあった!」
普通に読んでいたら見落とすだろう、読ませたくないという意思がひしひしと伝わってくるミジンコみたいな文字列。
けれど今の私には通用しない。
「効果解除について」
ガッヘン系統呪文は度重なる仕様変更、無理な改良、分類間違いにより基礎理論が紛失したため、解除呪文は失われている。効果時間が切れるまで落ち着いて待つこと。
注∶対面ではなく遠隔系魔法や設置式呪いを媒介にしてかけられた場合は、媒体となった魔法を通し術者自らリバウンドさせることで解除可能。
――――――――――――――――
「はぁ…………作った人たちなにやってんの?」
さっきから呆れてばかりな気がする……奇跡的に解除できそうなことが分かったけど、それよりツッコんでしまうくらい呆れている。
……でも! アケノの「ほぼ万物を見通す目」越しにかけられたってことは解除できるってことだよね!
だったら次は?
アケノの弱みを握る。そしてリバウンドさせる!
「よっしゃあ燃えてきたよっ!!!」
胸をどきどきさせながら、私は固有魔法のページを探した。
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