008 「魔法って非常識すぎてちょっと引く」
――事件は、お昼の放送から始まった。
私はいつものように、教室でナオとお弁当を食べていた。
ママの驚異的な収納術により、コンマ数ミリの隙間もなくぎちぎちに詰められたおかずたち。
蓋を開けた途端、唐揚げはジュージュー言い出しご飯はほかほか湯気を出し、デザートの冷凍みかんは冷気を纏うどころかプラスチックの壁面に霜を下ろし始める。
……ママの魔法だと分かっていても、流石に気色悪い。
「いつもながらすごいね、魔法って」
ミックスサンドをぱくつきながらナオが言う。
レタスとハムのおしゃれなやつだ。
「……私は少し怖いけどね。これ多分さ、時間停止の魔法じゃない? 魔法って非常識すぎてちょっと引く」
「あはは、それ魔女のリズが言うの?」
からからとナオが笑ったとき、黒板の上のスピーカーが震えた。
放送部のお昼のラジオ、「L-WAVE」が始まるのだ。
『――こんえる、こんえる、こんえるー! みんな元気にしてるかなー? 今日もL-WAVE、始めるよー!』
パーソナリティーというよりVtuberのような挨拶で始まるお昼のラジオ。
テンション高めだけど、するっと耳に馴染む声はさすが放送部。
『本日はなんと、ゲストに来てもらったよ! さぁお名前をどうぞっ!』
ざわざわする教室。誰だろう、とみんなが耳を傾ける――――。
『ムハハハハハ! 魔女の皇アケノじゃッ!』
「ってあんたかーっ!!!」
思わず叫ぶ私。
どうどうとナオに諭されて、しぶしぶ腰を下ろす。
『我が中学が誇る二人の魔女! その一人、皇アケノさんが登場だーっ! 今日は魔法について、いろいろ聞いていっちゃうよ!』
「あ、ボクちょっと気になるかも!」
ナオがスピーカーを見上げる。
周りを見てみると、だいたいみんなそんな感じ。
まったく、ここにも魔女はいますっての。
『正直、魔女ってよくわからないよねー? 話しかけづらいって子も多いと思う! もし怒らせたら、豚の尻尾とか生やされちゃうかもだし!』
『生やさないがな!』
「生やさないよ!」
――――うわ、ハモっちゃった……なんか嫌だ。
『生やすならヌメヌメの触手を生やす!』
「生やさないよッ!!!」
リズ、リズ……とナオに突かれる。みんな引いていた。
あわてて私は縮こまる。
『あはは……ヌメヌメの触手を生やされないように気をつけるとして……してっ!』
――パーソナリティーも引いていた。
けれどそこはプロ、すぐに切り替えて話し出す。
『――それでは質問いくよ! アケノさん、魔法ってぶっちゃけ何なんだー?』
『選ばれし者以外……ただの白人、黒人、黄色人種ごときには使えない、強力な力じゃッ!』
『おーっとぉいきなりの全方位ヘイト発言だ! 放送に乗せて大丈夫なのかーっ!』
コラァ放送部! とか小さく聞こえる。
どうやら教師が放送室に突撃したっぽい。
『魔女以外には使えないのじゃ、これは差別ではなく区別じゃッ!』
『なるほど、だったら問題ナッシング! 先生どうですか? 大丈夫? よし!』
――言うて大丈夫かな? ごときって言ってる時点で差別では?
『ではもっと詳しく聞いていくよっ! ずばり、魔法とはどういう仕組みっ?』
『ワシにもわからん!』
『おおっとぉいきなりの無能発言だ! 魔女ごときには理解できない、人智を超えた力ということなのか!』
『――おぬし、尻から触手を生やしたいのか?』
『すみません調子乗りました』
爆笑するみんな、廊下まで響く笑い声。
大丈夫かな、アケノなら本当にやりかねないけど……。
『じゃがあながち間違いでもない。魔法とは人智を超えた力じゃ! あり得ないことも夢のようなことも可能にしてしまう、どこかのバカの空想がそのまま現実に生み落ちたもの、それが魔法の正体じゃッ!』
『なるほど! ちなみにどこかのバカ、とは誰のことかな?』
『神じゃ』
『おおっと神にまでヘイト発言だ! これは魔女狩りされても文句は言えないっ!』
『触――』
『はいそれでは次のコーナー! 実際に魔法を使ってもらっちゃうよー!』
……やかましいお昼が過ぎていく。
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