Lesson 2 陰湿バトル! もうひとりの魔女
007 「ムハハハハハ」
「フハハハハ! 雨宮理珠! まだワシの配下にならぬのかッ!」
教室の扉が、ばごんと開いた。
長い黒髪を揺らし豪快に笑うシルエットを見て、私はため息をつく。ついでに欠伸もする。
違うクラスだというのに、そいつはずかずかと教室に侵入、私の机までやってきた。
「――ワシは
知ってるよ、会うたびに名乗ってくるんだから。
この中学校に、魔女は二人。
一人が私、もう一人が彼女――皇アケノだ。
「……あんた、よく朝からそのテンションを保てるね」
「ハッハッハ! ワシは高血圧じゃからなッ!」
それはむしろよくないのでは、とツッコむ気にはなれない。私は寝不足なんだ。失恋の日の夜は長い。
そんな私に、アケノはハン! と鼻を鳴らして――。
「――ワシは皇家十五代魔女、皇アケノッッッ!」
「もう知ってるよっ!!!」
思わず怒鳴る私。
同じ情報を無理やり何度も入れられるほどむかつくものはない! 高収入バイトのトラックかっ!
「おぬしはまた『あんた』と呼んだ! まだワシの名前を覚えられんのかッ」
「めんどくさいだけだよ!」
「――ところでおぬし、失恋したそうじゃな? いい気味じゃ」
「唐突に傷口抉るのやめてくれないかな? てか何で知ってるわけ!?」
まさかナオが……? と振り返ると、当の本人は困惑しながら首を振っていた。
だよね、違うよね。よかった……。
「……誰から聞いたの」
思ったより低い声が出て、自分でも少しびっくりする。
わかってはいたけど、アケノは全く気にも留めず、ムハハハハハと胸を張った。
「聞いてなどおらんッ! ワシの固有魔法にかかれば、おぬしのことなどお見通しじゃ!」
「こゆう……え、何それ?」
「そんなことも知らんのか。皇家の魔女は代々、生まれながらに唯一無二の魔法を習得しているのじゃ! おぬしのような野良魔女とは格が違うッ」
「誰が野良魔女だこら」
「ワシの固有魔法は神の領域にも迫る、最強! 最強ッ! 最強ッッッ! な魔法なのじゃ!」
私の声は届かない。
ノリノリのアケノは両手で三角形を作り、額に当ててポーズを決め、宣言する。
「その名も、『ほぼ万物を見通す目』ッ! この魔法の前では秘密など無意味、おぬしのことなど全てお見通し!」
「はぁ?! 何そのチートみたいな魔法っ!」
――――いや待てよ? ほぼ?
けれど深く考える暇もなく、アケノは取り出した手帳を掲げて続けた。
「これは『ほぼ目手帳』! 見通した秘密は全て、これに記録してあるッ! 恥を広められたくなければ、早くワシの配下になることじゃな! ムハハハハハ」
「あ、ちょっと待てっ! 私の何を見たっ!?」
「ムハハハハハ――――――」
耳に残る笑い声を響かせて、アケノは走り去っていく。
追いかける気力はなく、ため息をついて見送った。
――ほんと、「己のために魔法を使う」を地で行っている魔女だよ……。
「……まだ続いてるんだ、皇さんのあれ」
側に来て言ったナオに私は頷く。
あれ、とは私に対する嫌がらせのことだ。
配下になれ、なんて突然言われたら、もちろん断るよね? そしたら始まって、いまだに続いている。
私が折れるまで続くらしい。そう本人に宣言された。
「そうなんだよ……この前なんか、下駄箱にアナホリフクロウが詰め込まれてたんだよ?! ほんとめんどくさい!」
うわあ……と引いているナオ。
ちなみに魔法で作られていたから、放課後までには消えたけど。
「ナオ、一緒にアケノをとっちめてくれない?」
「……ボクはパスするよ。リズは友達だけど、魔女同士のいざこざに首突っ込みたくない……」
――ちぇー、いくじなし……。
いやナオはかっこいいから意気地なしじゃないな。
「そうだ、先生には相談した?」
「したけど……魔女同士のいざこざに一般人を巻き込むなって言われたよ!」
ボクと同じじゃん、とナオが笑う。
私も笑う。HAHAHAHAHA!
――――うん、先生は別にかっこよくないから意気地なしだ! 生徒をなんだと思ってるんだ!
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