4-3話 変なおじさん



「伯爵令息様から、平民と話をするなと命令が出たわ」


 学園の玄関ホールで、ロペス伯爵家の令息の取り巻きとなっている令嬢3名が、ヒソヒソと話し合っています。


 意地悪な三人組です。


「平民は汚いからだそうです」


「困りましたね、平民と話せないと、雑用を言いつける相手がいませんわ」


 平民がいないと、貴族は本当に困るのです。



 学園の玄関に、おじさんが立っています。

 質素な平民の身なりです。


 あの取り巻きたちが、見て見ぬ振りをして通り過ぎていきます。


 あんたらには、人生の先輩を、うやまう気持ちは無いのかい!



「どうしました?」

 困っているようなので、おじさんに声をかけます。


「学園長に会うため、田舎から出て来たのじゃが、広くて道が良くわからんのじゃ、わはは」


 困っているはずなのに、豪快に笑うのですか?


「私でよろしければ、案内しますよ?」


「それは助かるじゃ」


 田舎から出て来たと言っていましたが、靴は磨かれています。


 どこか怪しいお客様です。


「貴女はどこかのご令嬢ですか?」


「いえ、平民出身の一代限りの子爵です。領地は有しておりません」


「すまない、余計な事を聞いてしまったの」


「大丈夫です、血筋や身分による差別には慣れていますから」


「もしかして、特待生で学年首位のお嬢さんとは、貴女のことかの?」


「そうだと思います」


「そうか、足を運んだ甲斐があったよ、今日は良い天気じゃ」


 は? 確かに良い青空です。



 ◇



 学園の玄関ホールに、おばあさんが座り込んでいます。


 金髪で、質素な身なりです。


 こんな場面、数日前にもありましたよね。

 どうなっているんですか、この学園は?


「どうしました?」

 困っているようなので、声をかけます。


「そこの段差で、つまずいてしまって」


「ヒザをすりむいていませんか? こちらへ」

 近くの部屋に移動し、座ってもらいます。


「失礼します」

 スカートをヒザまであげます。


「赤くなっていますね」

 私は、傷口に手をかざします。


 傷口が淡く光り、治癒していきます。


「貴女は、光魔法を使えるの?」


「はい、でも内緒にして頂けると助かります」


「わかりました、今日はこのまま帰る事にします」



 おばあさんを迎えに、馬車が来ました。

「新しい馬車、しかも貴族用では?」


「では、お気をつけて」


「ありがとう、お嬢さん、今日は良い天気ですね」

 は? 確かに良い青空です。



    ◇



 教室では、セレーナ嬢が、正式にロペス伯爵家の養女になった話題で溢れています。


 これで、あの伯爵令息と義兄弟になったわけです。


 同級生が義兄弟になるのは、珍しいかも。

 教室では、様々な噂が飛び交っています。




「フラン様、あの伯爵令息の取り巻き令嬢3名が、謹慎処分になっています」


 いつものように、従者見習いの女の子が報告してくれます。


「学園を訪れた伯爵様を、無視した罰だそうです」


 あの人達が、伯爵クラスの方を無視するなんて、何かおかしいですね。


 学園に関係する伯爵は2名です。

 高等部の伯爵令息とセレーナ嬢の家のロペス伯爵。

 中等部に孫娘がいる辺境伯。


 それ以外に、あの人達が知らない第三の伯爵が、学園を訪れた事になります。



「フラン様、この学年ですが、退学や謹慎処分が多くて、他の学年から“最悪の世代”と噂されてます」


 反論できません。異常に同級生が減っています。


「はぁ~、同級生が減ると忙しくなるかも」

 


 伯爵令息の取り巻きが行っていた仕事が、私に回ってくる予感がします。


 さらに、伯爵令息の取り巻きの残っている方々が、パワハラに耐えきれず、セレーナ様のところへ移りました。



 風雲急を告げるとは、このような状態を言うのでしょうか?


 何かが起こりそうです。




(次回予告)

 おじさんを助けたフラン。次回は、おじさんの正体が分かります。

 ライバルは伯爵になったけど、フランは一代子爵、、、


 そこに、グリーン伯爵から、思わぬ申し込みがあります。



あとがき

 読んでいただきありがとうございました。

 18話で完結しますが、現状を、星などで評価していただけると嬉しいです。

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