1-2話 レデイになる



「フラン、やっぱり婚約しよう」


 学園の中庭で、お昼のお弁当を食べている時です。


 私に婚約破棄を宣言した男爵令息が、復縁を迫ってきました。



「さっき、教室で『フラン、お前が“平民”だから婚約を破棄する!』と、言いましたよね?」


 この令息は、人物の良し悪しよりも、貴族か平民かを優先し、さらに、ケバ顔の令嬢のことが好きなので、これからは“ケバ好き男爵”と呼びます。


 私に婚約破棄と言った罰です。


「実は、俺と結婚すれば、お前は、男爵夫人になるので、平民ではなくなると気がついた」


 そんなことは、お見合いの前に気が付きなさいと、時間があれば説教する所です。


 それよりも、今、私はお昼のお弁当を食べたいです。



「貴方の恋人の令嬢には、どうお話したのですか?」


「彼女には言っていない、お前との婚約を決めてから、話をする」


 ははん、私がどう返事をしても、貴方はキズ付かないのですね。


「二股男は、顔を洗って、出直してきなさい!」


 優しく、帰って頂きました。



   ◇



 急いでお弁当を食べ、緊張しながら学園長室の扉をノックします。


「フランです」


 学園長から呼び出されて、この部屋に入るということは、怒られるか、褒められるか、どちらかです。


「入りなさい」


 学園長の声は機嫌が良さそうなので、これは褒められる方ですね。


 学園長室の重いドアを開き、入ります。



 部屋の中、応接ソファーセットには、学園長のほか、第一王子も座っていました。



 二人が、本革張りのイスから立ち上がりました。


「フラン、貴女の聖女見習いとしての活躍が、国王に認められました」


「これから“レディ”の称号を授与します」


 レディの称号は、王国に貢献した平民に与えられます。金品の寄付でも頂けますが、私の場合は功績です。


 聖女様に仕えて、貧困各地を回り、国民に光を与えた活動が、高く評価されたようです。


 この活動への高い評価は、次の世代にも引き継がれる前例となりました。とてもうれしいです。


 学園長の機嫌が良いのは、これでしたか。


 優秀な生徒をこの学園から出すことは、学園長の功績にもなりますから。


 今後、私は、平民の身分ではありますが“レディ・フラン”と名乗ることが許されます。


 貴族専用のお店に入れるとか、様々な特典が付いてきます。


 でも、私が名乗ることは無いです。


 これでお金が手に入るわけではありませんし、ぜいたく品を欲しいとも思いませんから。



「おめでとう、レディ・フラン」


 国王の名代である第一王子が、私の制服の襟のホールに、レディを表す若葉色のバッチを付けてくれます。


 学園の制服は、燕尾服のようにアレンジしたダブルボタンのブレザーです。


 制服の色は、薄い灰色です。


 下は自由なので、スカートの方が多いですが、私は、汚れが目立たない濃い灰色のパンツルックです。



 第一王子は、真っ白なズボンです。


 王子のバッチの色は深い青色、ブルーサファイアの宝石のバッチを付けています。


 この色のバッチは、王族であり公爵と同等以上との意味を持っています。


 第一王子は、王太子として女神さまの祝福を受ける前なので、陛下の敬称は付けないことになっています。


 もちろん、同級生の第二王子、中等部の第三王子にも、陛下の敬称は付けません。


 学園では、生徒は平等だとの方針を掲げていますが、現実には、制服のバッチの色で、身分の上下が分かる仕組みになっています。



 私は、制服をちゃんと洗濯していますが、香水を付けていないので、汗が匂わないかな? ドキドキです。


 第一王子の顔が、とても近く、私の制服に手が触れています。


 この制服は、一生洗いません!

 これは、最高のご褒美です。


「これからも精進いたします」

 カーテシーをとりながらお礼を述べます。



「フラン、成績優秀な平民に授与される一代男爵に申請してはどうか」


 学園長から、うれしい提案がありました。


「しかし、申請には貴族の推薦が必要だな」

 学園長が、だれに頼むか思案しています。


「では、私が推薦状を書こう」

 第一王子様が手を挙げてくれました。



「ありがとうございます、第一王子様」

 お礼を言います。これで、準備は整いました。


 私が貴族の爵位を得られたら、皆さんを幸せにしたいです。


 窓の外、青空に白い雲が浮かんでいます。



   ◇



 教室に戻ると、ケバ好き男爵が、同級生の栗毛の美人、セレーナ嬢に迫っていました。


 彼は、ケバ顔じゃなくても迫るのでしょうか。


 そういえば、私もスッピンなのに、迫られたわけですよね。


 そうか、彼は誰でもいいのか。

 ケバ好き男爵ではなく、女好き男爵だったのですね。



「やぁフラン、顔を洗ってきたよ。これで婚約が決定したんだよね」


 この方、私が考えていた以上に、お花畑のようです。

 婚約破棄されて良かったと心底思います。



「あら、フランと婚約したのなら、私との婚約は無しですね、残念です~」


 栗毛の令嬢が、笑いながら、離れていきます。

 男爵家ですが、高級品を身に着ける美人令嬢です。


「いや、君とも婚約する、約束するから」


 ケバ好き男爵は、節操がないようです。もう怒る気もしません。



「令息様、私との婚約はどうなってますの! まさか、三股ですか?」


 ケバ顔令嬢が、怒鳴り込んできました。



「お前、何をやってるんだ! チョット来い」


 クラス委員長の第二王子が、助けに来てくれました。



 ケバ好き男爵を引っ張って、教室の外に出ていきます。


「俺でも、三股はしないぞ!」


 え? 第二王子の怒るポイントが、少しズレています。


 セレーナ嬢が、栗色の髪を揺らして、第二王子の後を追うのが見えました。


 彼女は、第二王子との仲が噂されている令嬢です。



 ケバ好き男爵は、学園長から謹慎処分を言い渡されました。


 セクハラ男は処分されて当然です。



   ◇



 その後、ケバ好き男爵は、行方不明だそうです。


 窓の外、青空に黒い雲が浮かんでいます。




(次回予告)

 レディの称号を得たフラン。次回は、学園のパーティに参加します。

 でも、お見合いした男爵令息から、、、


 恋のライバルになる美人令嬢“セレーナ”が登場します。



あとがき

 読んでいただきありがとうございました。

 18話で完結しますが、現状を、星などで評価していただけると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る