平民ですが、王妃になって、みんなに美味しいお弁当を配ります!
甘い秋空
1.レディになる(2年生1学期)
1-1話 ケバ好き令息 第一と第二王子登場
「フラン嬢、貴女との婚約を破棄する」
王立魔法学園、王都にある中高一貫校、私は2年生のフランと申します。
男爵令息から、学園のお昼休み、教室の中で、しかも大声で、私は婚約破棄されました。
なんて事を宣言するのですか!
まだ、5月ですよ、これから2年間、毎日、顔を合わせるのですよ。
せめて、卒業パーティーで宣言して下さい。
ここは、私が落ち着かなければ。
「男爵令息様、たしかに、先月お見合いをしましたが、婚約を交わした覚えはありません」
お見合いと婚約は違います。
「今、何とおっしゃいましたか?」
一度お話をしただけで、女性を恋人扱いするのは、やめて欲しいものです。
「何度でも言おう、婚約を破棄する」
金髪の令息が、子供のように答えます。
顔だけでしたら、まぁまぁイケメンなのですが、頭はお花畑ですね。
面白いので、少し遊んであげましょう。
「男爵令息様は、お見合いの場で、何とおっしゃりました?」
「その銀髪は、キラキラと美しい」
「青紫の瞳は、吸い込まれるようだ」
「生成優秀で、美人、君は理想とする完璧な女性だ」
私は、令息が語った歯の浮くようなセリフを、そのまま、お芝居のように語ります。
「フラン、お前の全てが好きだと、その口で、私を口説ましたよね!」
舞台は最高潮です。
令息の顔は真っ赤です。
「そんな私の、何が不満で婚約破棄をなさるのです?」
うは、このセリフ、悪役令嬢みたいです。
男爵令息様は、口をアワワとさせ、固まっています。
教室中の視線は、すべて私たちに注がれています。
「横の令嬢は新しい恋人ですか?」
男爵令息の横に令嬢が寄り添っています。
「そ、そうだ、この男爵令嬢と婚約する」
実は、この令嬢の存在は知っていました。
クラスで有名なカップルですもの。
令息は、横に立つ栗毛の令嬢から、シッカリしなさいと、言われています。
将来、尻に敷かれるタイプですね。
そこは、嫌いじゃないです。
令嬢は、異常に濃いメイクなので、とても高等部2年の同級生とは思えない“ケバ顔令嬢”です。
「わかってるって」
「フラン、お前が“平民”だから婚約を破棄する!」
あ~、平民って、言っちゃった。
私の身分は、平民であり、特待生として、この貴族クラスに入っています。
しかし、この学園では"生徒は平等である"ことを方針に掲げています。
「聞き捨てならないな」
ほら、生徒会の役員が来ました。
「「第一王子様!」」
教室中がザワつきます。
金髪碧眼、絵に描いたような薄味系のイケメン、しかも次の国王に一番近いという、超ハイスペックで、モテモテな学園の先輩です。
「廊下にまで聞こえていたぞ」
それは、さすがに、私も恥ずかしいです。
「身分を理由に婚約破棄することは、女神さまが許しても、この私、第一王子であるアレックスが許さない!」
これは、女神さまも許さないと思います。
私は、一応、聖女見習いですから。
でも、王子の美しい声には、聞き惚れます。
だって、私は大の“金髪好き”ですから。
「じょ、冗談です、第一王子様」
ケバ顔令嬢が取り繕います。
この機転が利いた対応は、もしかして彼女は切れ者?
「そうです、同級生同士の冗談です。私はその男爵令息様とは婚約を取り交わしておりません」
私も、婚約破棄を否定します。
早くお弁当を食べたいので、この修羅場を、これ以上は炎上させたくないのです。
「貴女がそう言うのなら、私は引き下がろう」
第一王子は、生徒会長として、学園のパワハラ撲滅に尽力している方です。
物分かりが良くて、ありがたいです。
教室を立ち去る王子に、ケバ顔令嬢が小声で話しかけ、付いていきました。
そんな行動に、ちょっとイラっとします。
なんでしょ? このイラつく感情は。
残された男爵令息は、一人で寂しそうです。
横に立っていたケバ顔令嬢は王子に付いていくし、クラスの令嬢たちには遠くから睨まれているし、いい所がひとつもありません。
私は、お弁当を食べるため、中庭に向かいます。
◇
中庭は、今日も青空、あ、白い雲がポッカリと浮かんでいます。
お気に入りのベンチで、お弁当を広げます。
平民学生寮のサンドイッチは美味しいのです。
「兄から聞いた。教室で大変だったそうだな」
同級生の第二王子です。
黒髪で黒い瞳の、濃い味系のイケメンです。
金髪じゃないので、私のストライクゾーンからは、少し外れています。
私の横に座りました。
「いえ、ご心配には及びません」
「あの男爵令息は、二股をかけるやつだから、気をつけろ」
あの〜、第二王子もたくさんの令嬢に声をかける“チャラ男”として有名なんですけどね。
そういえば、私は、声をかけられたことがありません、なぜでしょう?
第二王子は、私に余計なアドバイスをしながら、自分のお弁当を開きます。
貴族学生寮のサンドイッチは、とても美味しそうに見えます。
「食堂ではなく、いつも、中庭で弁当を食べているのか」
「はい、平民は、貴族と席を一緒には出来ません」
第二王子は、サンドイッチを食べながら、いや勢いよく頬張りながら、考えています。
「フランは、今、王族と席を一緒にして、弁当を食べているよな?」
「こ、こ、これは、、、第二王子様を護衛しているのです、きっとそうです」
あわてたので、口の中のパンが、飛び出しそうです。
「なるほど、そうだな」
第二王子が笑います。
チャラ男なのに、なんだか昔懐かしい笑い顔です。
「では、毒見をしてもらおう」
私の手からサンドイッチを奪い取って食べ、代わりに自分のサンドイッチを私の口に入れました。
「美味しい!」
第二王子のサンドイッチは、別格のおいしさです。
「美味いだろ、王族の弁当は香辛料が豊富なんだ」
自慢していますが、作ったのはあんたじゃないから。
「じゃな」
第二王子が帰っていきます。
なんなんだ、あいつ。
私も、王族になったら、みんなに美味しいお弁当を作ってあげられるかな。
「よし、平民ですが、王妃になって、みんなに美味しい弁当を配ります!」
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