金色の髪のお姫さま

深雪 了

金色の髪のお姫さま

西洋のとある国のお姫さま

長い金色の髪が綺麗な、十五歳の愛らしいお姫さま


大事に大事に育てられ、素敵な身分ある青年との結婚を楽しみにしていました。

青年は心優しく、お姫さまの髪が好きだと笑顔で言ってくれました。



けれど王子さまの国と、お姫さまの国は互いにいがみ合うようになってしまいました。


二つの国が歩み寄ることは無く、相手の国を攻撃する日々が始まります。


そんないたましい様子が三年も続いて、お姫さまは戦争にすっかり慣れてしまいました。


今日も爆薬を積んだ飛空艇が灰色の空を飛び、お姫さまの国に雨を降らせます。


その音を聞きながらお姫さまは椅子に腰掛け、静かに書物を読み、金糸のように豊かな髪を年老いた女召使いが丁寧にかします。


長く続いた戦いは突然終わりました。

相手の国の王さまが病気で急死したのです。


けれどもう今更、王子さまと結婚することはかないません。

お姫さまは、物憂げな顔で自らの髪を掬い眺めます。

せめてあと一度だけでも、この髪が好きだと言ってほしかった。あの優しい笑顔で、名前を呼んでほしかった。


もう、こんなものには価値が無い。


お姫さまは虚ろな表情で椅子から立ち上がり、鋏を手にしました。そして肩のあたりまでそれをあてがうと、一気に、ジョキンと鋏を入れました。


辺り一面に、光のような金色が舞い、ふわふわと散っていきました。

それをお姫さまは無の心で眺めます。


それと同時に、青年の笑顔、かけてくれた言葉、そして青年への感情いっさいを忘れました。


お姫さまは金色の中にひざまずくと、両手で掬い上げ、また散らしました。金糸ははらはらと宙を舞い、絨毯に落ちます。一度、そうしたきり、お姫さまの瞳はもう金色を捉えていませんでした。






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金色の髪のお姫さま 深雪 了 @ryo_naoi

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