果ての無い地獄

 幼少期。虫を殺した。たくさん。石を退けると逃げ惑う有象無象。踏みつけ、八つ裂きにし、水に沈めた。時に慈しむように。時にふざけるように。遊び。生と死を学んだ。

 苦痛は湧き溢れ出る。その時の残酷な自分を思い返す。有象無象の四肢を掴みもぎ取った時。水に沈め抗うのを上から覗き込んだ時。火に、投げ込んだ事も、あったかもしれない。

 今の自分は何なのだろう。怠惰、暴力と疎遠で、五体満足に生きている。何不自由あろうか。

 心の欠如が喚き散らしている。抉り繰り抜かれ光を吸収してなお深く遠い穴。空いていて瞳も同じくらい黒く染まる。我を失って余りある生を吸われている。穴に吸着されていく。死は纏わりつく。過去の記憶になり我と共にある。

 柔肌があれば耐えられるのだろうか。緩慢な実感と毎晩の様に見る悪夢。抽象的な夢。複眼がこちらを睨みつけている。単一の眼は何処を向いているのか分からない。けれど、此方を見ている様な気がしてしまう。

 求められれば何か変わるのだろうか。因果は此方を永遠に睨みつけて生の充足を問いかけてくる。肉体が反応すれば救われるのだろうか。触感が自分を此岸へ寄り戻すのだろうか。唾液、体液、血液。いのちはどこにやどるのだろう。

 抱きたい。そう願いながら苦しみ踠く。何かにしがみつきたい。生きている理由が分からなくなってただ逃げ惑う日々。石をどけた時に浴びる陽の光は恐怖なのかもしれない。それを思うと虫と私は何が違うのだろうか。艶かしい世界に身を窶した方がいっそ楽なのではなかろうか。

 昆虫同士がつがうように、本能のままに、生殖器を擦り合わせながら、そんな事を、思う。

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愛の様な何か -タナトスとリビドー- 電話番号案内局 @WhitePages

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