永遠なる願

 道を失ってしまった。聾唖になってしまったような気分だ。かなしみを半分に砕いて分け与えられたみたいに無力に無垢にボロボロに崩れたそれを見つめている。感情と音が胸の中に反響する。私を見つめている私は笑っている。夕刻の吊り革に掴まりながら何処へ行くかを見失った。滴り落ちる感情。股の間から滴り落ちる。

 奴隷が居た時代。いや、今でもいるのか。その時代に人は何思うのだろうか? 悲しみなんてものは存在しないのかな? ただ、居る。居るだけを許された存在。それを思うともしかしたら今この瞬間は豊かなのかもしれない。

 家を焼かれ。村を焼かれ。田畑を焼かれ。全てを失い絶望する瞬間に盲目になるのかもしれない。あ。という言葉しか持つことを許されない瞬間。それが目の前に突き付けられる。苦しみと痛みと怒り。怒りだけが大地に溶け込み誰かの肥やしとなる。糞に混じった感慨が無情に溶け合って一つとなりそれを踏み締める。奥歯を強く噛むと色濃くなる豊穣。

 無機質な鉄箱の中でそれを思うと豊かになる。私は私を視姦する。有限の時あらば悠久の翳あり。もの悲しや。わたしなどしにさらしたほうがよいとおもうこともおおい。けれど、何も見えず只吊り革にぶらり繋がって溶け出した幻惑に酔いしれる。

 夕景は染まる。生者を呑み込み全てを無垢なる赤子へかへる。マジでクソみたいな人生だった。これからもそう。ならもうちょいマシになりたかったかも。でも、今もそんなでもない。感情のスイッチを切って漂うだけ。吸われ灰になって舐め取られ卑近な私を曝け出すだけ。桜の葉に湧いた毛虫を踏み潰した時の嫌気と熱を与える。そんくらいの存在でいい。

 何も見えないから。愛など見えないから。欲しいものを欲しいままに欲する。19世紀まで人口は四分の一以下だった。何で増えてしまったんだろう。私は私を視姦する。蕩けた瞬間に捧げるワタシを慰める人間に囲まれながら。

 痾。

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