第3話秘密を知る女
彼は同期の女性の顔を訝しげに見つめた。
彼女は話し出す。
「わたしはあなたの生活の、ほとんどを知っています。昨日、後輩の子と居酒屋千代でコーラ飲んでましたね」
彼は黙っていた。
「その前日、精神科を受診されましたね。何の病気か分かりませんが、あなたが精神安定剤を飲んでいることは間違いないですね」
彼女は話しを続けた。
「来月、正社員の昇格おめでとうございます。でも、精神安定剤を飲んでいる人間に勤まるのでしょうか?」
彼は、
「お前に関係ない!だいたい、お前があの病院にいたのであれば、君も病気なのか?」
若い女性は、フフフと笑い、
「わたしは統合失調症です。もう、治療して8年になります。高校時代に発症させて卒業するのがやっとでした。大学は諦めて、バイトしながら治療をして、あなたとほぼ同時に3年前にこの会社に入社したのです」
彼は、灰皿にタバコを捨て、立て続けにもう1本、タバコに火をつけた。
「君は、何のために私を観察しているんだ?」
と、彼は言った。
「観察?アハハ。たまたま、見掛けただけです。あの厭な病院はたまたま掛かり付けですし、千代は先輩に誘われて飲んでいただけです。あの、わたしの友達になってもらえませんか?」
彼女は真剣な面持ちで、お願いした。否、懇願した。
「い、いいよ」
と、彼は答えた。
彼は、友達に飢えていた。同じ病気を共有できる友と話しする事に飢えていた。
「君は、ホントに統合失調症なのか?」
女性は財布から、精神障害者福祉手帳を彼に見せた。
彼女は何処と無く寂しげであった。
彼は女性に言った。
「私も統合失調症患者なんだ」
彼女は眼を見開き、
「えっ、先輩も?わたしは、うつ病だと思ってました。これって、喜んでいいのかな?」
彼は、缶コーヒーを飲み干した。
「今夜、食事でもどうだい?」
彼女は破顔して、
「行きましょう。是非。店はわたしが選んでいいですか?先輩はお酒ダメでしたよね?」
「うん。頑張って、レモンサワーなら」
「じゃ、17時に、会社の正門で待ち合わせしましょう」
彼は、腕時計をチラリとみて、
「ちょっと、待たせるかもしれない」
「わたしは、大丈夫ですよ」
「あの、厭な居酒屋は辞めてくれよな?」
「もちろんです。去年の忘年会、先輩大変でしたからね」
「じゃ、17時チョイ過ぎで」
2人はオフィスへ戻った。
彼は、あの厭な病院に通う友がいたのか?と、驚きと反面嬉しさで午後の仕事は上の空だった。
それでも、健康食品の営業は好調だった。
腕時計を見ると、17時5分。
仕事を終了させ、若い女性が待つ会社の正門に向かった。
若い女性は、立って彼を待っていた。
彼は、待たせた事を謝り、2人は焼き鳥屋に向かった。
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