第4話焼き鳥屋にて
彼は急ぎ足で、若い女の子が待つ会社の正門に向かった。
彼女は彼を待っていた。
「ゴメン、待たせちゃった。僕は『鳥ひろ』がいいんだけど、そこでも良いかな?」
彼女は、
「『鳥ひろ』でいいですよ!あそこは、カエルの唐揚げがある店ですよね?」
彼は驚いて、
「君は『鳥ひろ』を知っているのか?飲もう飲もう」
「でも、先輩は下戸ですよね?面倒は見ませんが大丈夫ですか?」
彼はちょっと考え、
「レモン酎ハイ、2杯までだから」
「明日は、土曜日ですからね。わたしは思いっきり飲みますね。あ、お勘定は先輩は3分の1で結構ですので」
と、若い女の子がそう言った。しかし、だいの40代の彼が女の子に支払いさせる訳がない。
2人はバスで移動して、『鳥ひろ』の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ~、あっ、レモン酎ハイのお兄さん。お久し振り~、また、今日はかわいい子連れてぇ~」
髪の毛が紫色の、おばちゃんが言った。その旦那は、板さんだ。
「お兄さん、こちらのお嬢さん……、あなた、この店に以前にもいらっしゃったわよね」
女の子は、そうです。と、恥ずかしそうにおばちゃんの質問に答えた。
「先輩、飲みましょう。先輩はレモン酎ハイで、わたしはハイボールでいいですか?」
「うん、いいよ。後、焼き鳥の盛り合わせ」
彼女は、そっと耳元で、
「カエルもいいですか?」
と、言ったので彼はいいよ。と、答えた。
間も無く、酒が運ばれ2人は乾杯した。
「もう、3年になるんですね。私たち。えっと、勤務歴ですが」
彼は、レモン酎ハイを舐めるように飲みながら、
「そうだね。半年、僕の方が先だね」
「先輩は彼女さん、いないんですか?」
彼は痛い所を突かれ、
「まっ、こんなオッサンを好む女の子は、この世にはいないだろうな」
女の子は、いたずらしい言葉で、
「先輩、ここにあなたの事が気になる20代の女性が居ます」
「またまた、ウマイね?君は。でも、オッサンは信じないよ」
彼女は、ハイボールをあっという間に飲み干し、2杯目をお代わりした。
焼き鳥の盛り合わせも一緒に出てきた。
この、いい塩梅の塩焼きが堪らなく美味しい。
彼女は豪快に串から鶏肉を食らった。
「月曜日の仕事終わり、また、病院なんです」
と、唐突に彼女が話しだす。
「あの病院、何か厭なんです。先生は優しくて、頼り甲斐のある先生なんですけど、厭なんです」
と、溢す。
「じ、実は僕も同じなんだ。十分過ぎる病院なんだけど、厭なんだ。何か、この病院が生命線なんだと思うと、やりきれなくて」
彼はそう話し、レモン酎ハイの2杯目を頼んだ。
今度は、カエルの唐揚げと同時に酒を運んで来た。
カエルの唐揚げは美味しい。小骨を気にしなきゃ、鶏肉の唐揚げに遜色ない一品である。
「わたし、初めて同じ精神病の仲間が出来たと、内心喜んでいました。先輩は、仕事が出来て、後輩には優しいし、こんなバカ学歴で大した職歴のないわたしを同じ会社の方と、
、食事をご一緒できるのは、とても光栄です」
と、ハイボールを彼女はごくごく飲んでいる。一体、この女の子、どんな胃袋してるなか?と、彼は考えていた。
「僕も仲間が出来て、心強いよ!君には感謝しているよ」
「何を?」
彼は戸惑い、
「僕と飲んでくれたこと」
「……先輩」
「何だい?」
「付き合ってもらえませんか?」
「冗談はヨシコちゃん」
「本気です」
彼は、3杯目は芋焼酎の水割りを注文した。今夜は長くなりそうだ。
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