第8話 彩芽 亮太side

彼女に出会ったのは、賑わう昼の街中。

雪のように白い肌が印象的だった。

気づいたら彼女の細い肩を叩いていた。

俺の方を振り向いた彼女に懐かしさを覚える。

「どこかで、会ったことない?」

自分でも何言ってるのかわからない。

でも、不思議と愛着がわくんだ。

「え、ちょ!!」

突然歩き出す彼女の後を追う。

だんだんとスピードが速くなっていって。

嫌われてるのかなぁとか思いながら。

「待って!!」

彼女の腕を掴んで。

「何をそんなに怖がってるの」

うつむいてるから表情はわからない。

「どうして俺の顔を見てくれないの」

何も聞こえないかのように反応はなくて。

「何も答えてくれないんだね」

思わず寂しいと思ってしまう。

俺もつられてうつむく。

掴んでる腕がわずかに動くが俺は離したくなくて。

諦めたかと思った瞬間、さっきよりも強く大きく振りほどかれた。

待っても言う間もなく彼女は走り去る。

右へ左へと曲がりながら。

小道まで追いかけるけれど見失う。

どうしてこんなにも喪失感があるんだろう。

彼女は一体何者なんだ?

どこに住んでどんな性格なんだ。

名前は。声は。

知りたいことが多すぎる。

「また、出会えあえるといいな」

ぽつりとつぶやいた言葉は青空に吸い込まれる。




たまたま、大きな屋敷の裏にある森を散歩してるときだった。

綺麗な歌声が聞こえ、声のする方へと引き寄せられた。

そこにいたのは木のくぼみの中に鮮やかな黄色っぽい赤の長い髪の女性だった。

肌は以上に白くて、体は細い。

綺麗なソプラノが心が落ち着く。

木の葉の揺れる音。

風邪が草木を揺らして、森のメロディができる。

「素敵な声だね」

彼女は僕を見て大きく目を開いた。

瞳は暗い黄緑。

光なんてものはなく、何も映ってない。

唇に歯を立ててるところを見るに、見つかったのが悔しいのか。

「ほら!!」

俺は彼女に手を伸ばして。

「行くよ!!」

彼女は俺の手を握って、2人で風に乗って空を舞う。

風になびく彼女の鮮やかな黄色の髪が陽の光にあたり輝く。

いろいろな場所に連れて行った。

俺の知る限り説明して、なんの反応もない彼女は聞いてるのかどうか怪しい。

そうして、俺が一番見せたかった場所につく。

人魚の湖。

「ここは人形が歌う湖。人形の歌には過去を思い出す力と、元気になる力、治癒の力があると言われてるんだ。でも、この数百年誰も見たことがない」

毎日のようにこの湖には来るけれど一度も人魚を見たことがない。

それでも、祈るようにここに来る。

「じゃぁ、下に急降下するよ!!」

どうしても会いたい人がいるから。

会わなきゃいけない人がいる。

一気に下に落ちていく。

大きな水の音とともに風の音もやむ。

『ここに人魚がいたんだ』

俺の声は彼女に届いてるだろうか。

何か言おうと考えてると頭の中に響くきれいな声。

下から金髪の人魚がでてきた。

俺よりも彼女が気になるのか彼女にばかり話しかけてる。

何を言ってるのかわからない。

それでも、人魚たちが彼女に優しいのは表情を見ればわかる。

水の中が茜色に変わるころ。

人魚は彼女の手を取り僕の名前を呼んだ。

彼女を森の中へと送る。

「またね!!」

どこか寂しそうで悲しそうな瞳。

彼女の笑顔を見たい。

次、会うとき。

何を渡そう。どんな話をしよう。

彼女を笑顔にするのも。隣にいるのも俺がいい。

これが、彩芽との出会い。

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光の届く先に 陽控優亜 @youkouyua

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