第7話 どうして
翌日。
私はいつものくぼみの中で眠っていた。
ここは、日があたって心地いい。
前髪もピンでとめて、暖かい日差しに肌をさらす。
私の長い黒髪は手入れをしてないからぼさぼさで。
肌だって、ぼろぼろだし不気味なほど白い。
こんな私が裏社会の人間なんて誰も思わない。
私は日の当たる場所を歩けない。
せめて、ここでは日にあたりたい。
「今日は、お昼寝?」
うっすらと目を開けば彼がいた。
「長い髪だね。手入れとかしないの?」
私の脂っこくてべとべとした髪を触りながら彼は言った。
「勝手にするけど、保湿のオイルつけるね。髪の毛にくしも通さないと」
彼は風魔法で私を浮かし、丁寧に髪を整えていく。
私は、しゃべってはいけない。
歌うことはできてもしゃべると呪いがかかる。
彼は鼻歌を歌いながら私の髪を整えていった。
「じゃぁ、次はご飯だ」
彼はそういうと私にパンを差し出した。
私は少しだけみてあとは花を眺めていた。
「食べないの?」
彼は一口サイズにパンをちぎると食べて私に微笑んだ。
「毒とかも入ってないから安心して食べて」
別に毒の体勢はある。
だから、心配とかしてない。
「人魚がまた君に会いたがってたよ」
そんなの、知らない。
「次はどんな歌が聞けるかな。昨日の歌もすごくよかったよ」
私の歌を聞いた。
私の声を聞いた。
それなら、彼を。こいつを殺さないといけない。
私は隠し持ってたナイフにそっと触れる。
「君は悲しそうな目をしてるね」
突然の言葉で私の動きは止まった。
「僕には君の悲しみを救える方法なんて知らない。でも、知りたいんだ。君が何を抱えてるのかを」
彼がまっすぐな目を。優しい微笑みを。私に向けてきた。
こんなの知らない。
彼は何者なの。
「君は名前、何?俺は亮太。君は?」
私は何も答えない。
答えれない。
名前なんてないから。
「答えたくないの?」
私は首をふる。
「名前がないの?」
頷けば彼はそっかと呟いた。
「彩芽。うん、これからは君のことを彩芽と呼ぼう!!」
突然輝いた笑顔。
私の手を引っ張り彼の腕の中に落ちる。
暖かい。
日差しとは違う暖かさ。
これは、温もり?
日差しよりも安心して、心安らぐ。
「はい、彩芽。これ食べてね」
気づいたら口の中にパンを突っ込まれた。
小さくちぎってるから食べやすい。
飲み終わるのと同時にまたパンを入れられる。
どうして、パンを食べさせるの。
どうして、髪の手入れなんかするの。
どうして、私に名前をつけるの。
どうして。どうして。
疑問がありすぎて、言葉にならない。
元々しゃべらないけれど、彼は。亮太は私に優しくするの。
わからない。
どうしてなの。
闇の方が好きなのに。
亮太みたいな日差しの人間は嫌いなはずなのに。
どうして。
「あ、ちょ!!」
私は我慢の限界を超えて風魔法で自分の部屋に戻った。
不思議で変わった日差しの人間亮太。
もう二度と。今後一切関わってはいけない相手。
これ以上、私の心をかき乱すなら。
依頼じゃなくても殺さなきゃいけない。
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