第2話 よくわからない人

「何も、答えてくれないんだね」

どこか寂しそうな声。

ようやく諦めてくれたのかと思って腕を振り払おうとするけれど、びくともしない。

長い前髪から相手の顔色を伺う。

優しい目つき。

でも、どこか寂しそうで。

どうして、そんな目で見るの。

空いてる左手で胸のあたりの服を掴む。

思い切り右腕を振り払い、私は逃げた。

ここらへんのことはよくわかっている。

小道を何度も右へ左へ曲がり、暗い道をひたすら走る。

よく、わからない。

なんなの、あの人。

わからない。わからない!!!

大きな屋敷の裏道を通る。

でも、私は娘じゃない。

誰の目にもつかないところで仕事をしている。

彼らからしたらお金を生み出す金のダチョウ。

わからない。私は、世界がわからない。

夢物語なんてわからない。

私の心も。体も。

小さい頃の記憶も。

あの人も。

全部全部。わからない。

わかりたくない。

なのに、これは何?

眩しかった。輝いてた。

どうしてあんな風になれるんだろう。

何もかもわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る