彼女は私のモノ

御厨カイト

彼女は私のモノ


「今日のお昼、何にしようかなー」


凄く退屈だった現文の授業も終わり、私こと今村明梨いまむらあかりは使った教科者やプリントを机に入れながら今日は学食で何を食べようかぼんやりと考えていた。


昨日は日替わりランチを食べたから今日は麺の気分。

それに今日は木曜日だから確か天ぷらうどんがメニューにあったはず。

うん、それにしよう。


脳内に学食のメニューを広げながら食べる物を決めた私は早速学食へと向かう。

――が、その前にいつも食事を共にしている親友の真凛まりんの事を探す。

因みに真凛とは食事だけでなく登下校など様々な行動を共にするほどの仲である。


それ程の仲である真凜の事を探すために教室を見渡すが姿が見当たらない。

もう先に行っちゃったのかな?

……いや、彼女に限ってそれはあり得ない。



まぁ、多分トイレだろう。

少し待ってたら教室に戻ってくるに違いない。

皆が足早に学食へ向かうのを横目で見ながら、椅子に座り足をプラプラさせ私は真凛の事を待つ。



ところが、4、5分経っても彼女は戻って来なかった。

流石に空腹だし、痺れを切らした私はしょうがなく一人で学食へと向かうことにする。

一応LINEで彼女には先に行っている事を伝えておこう。


……それにしても、こんな事彼女にしては中々珍しい。

いつもなら少しでも傍を離れようならすぐに連絡をくれるぐらいなのに……むぅ……

若干モヤモヤした気持ちを抱えながら、T字路の角を左に曲がろうとしたその時、右の角の方で真凛らしき声が聞こえた。



「なんだ、ここにいたのか」と思いながら右側を覗くとそこには頬を赤く染めている少し気弱そうな男子と楽しそうに話している真凛の姿。

それを見て何故か私は反射的に隠れてしまった。

別にただの日常の一場面だろうに……なんだろうこの気持ちは。


それでも顛末が気になった私は真凛たちの様子をコッソリと角から覗き見る。

傍から見たらどう考えても怪しいだろうな。

でも、やむを得ない。



昼ご飯などどうでも良くなった私はそんな感じでじっと彼女たちの様子を見る。

変な緊張感と共に様子を見ていると、なんとその男子が真凛に手紙を渡しているではありませんか。

しかも、丁寧に封筒に入れられた見るからに大切そうな手紙。



……思ったんだけど、アレってラブレターじゃない?

渡してる子の顔めっちゃ赤いし、てかハートのシール付いてるベタなやつだし。

って事はコレ、告白の現場って事!?

……うーん、あまり覗き見するべきでは無い場面だったね、コレ。



不可抗力だったはいえ軽率だった自分の行動に反省しながらも、この状況に関して私は納得していた。



まぁ、確かに真凛モテそうだもんね。

綺麗な黒髪ロングで顔も小さいし、背も高くてスラっとしてるなんて少しチビでちんちくりんな私とは大違い。

受け取った瞬間の真凜の顔は見えなかったけど……多分満更でもないんじゃないかな。



……でも、これで真凛がこの男子と付き合うってなったらどうなるんだろう。

真凛は私よりも彼のことを優先するようになるだろうか。

LINEの『既読』も私のメッセージよりも彼のメッセージの方に速く付けるだろうか。

私の隣よりも彼の隣にいる時間の方が長くなるだろうか。


そんな様々な考えや想像が脳内を駆け巡った瞬間、私は真凛の元へ駆け出し、そして抱き付いていた。



「あれっ、あ、明梨?」


「い、今村さん!?」



いきなり現れた私のそんな行動に真凛は少し困惑と心配が混ざった声を、男子の方はより一層顔を赤くさせながら驚きの声を上げる。


だが、私の行動は止まらず、その勢いのまま目の前にいる勇気を持った不届き者に、



「ま、真凛は私のモノだー!お前にはやらん!去れー!去れー!」



と声を張り上げる。



言われた男子はというと、私のそんな迫力に圧倒されたのか「は、はいーっ!す、すいません!」と足早にその場を立ち去ってしまった。

まだ興奮冷めやらぬ私だったが、少し時間が経ち正気に戻ると慌てて抱き付いたままだった真凛の体をパッと離し、謝る。



「ま、真凛、ご、ごめんね。大事な告白の場をぶち壊しちゃって……」



よくよく考えるとあまりにも自分本位の行動だったと悔いる。

だが、そんな私を怒るわけでも責めるわけでもなく逆に真凛は落ち込んでいる私と目線を合わせるように少ししゃがみ、手を取って軽く微笑んだ。



「フフフッ、明梨、大丈夫だよ。元々断る予定だったから丁度良いって。だから、そんなに落ち込まないで」


「真凛……」



こんな時にでも私の事を気遣ってくれる彼女に思わず泣いてしまいそうになる。



「もー、相変わらず明梨は泣き虫なんだから。私は本当に大丈夫だから、ね?」


「うん……うん……ありがとう……」


「分かったから、もう気にしないの。明梨の事だから学食行くために私を探しに来てくれたんでしょ?ほらっ、一緒に学食行こっ!そろそろ閉まっちゃうし」



真凛は「はいっ」と片手を私の方に差し出してくる。

私が少し躊躇しながら握るとギュッと勢いよく握り返してきた。

じわーっと温かさが広がってくる。



「そ、そういえば、その貰ったラブレターどうするの?」


「うん?ハハッ、勿論捨てるよ。何、心配?」


「えっ、い、いやいや、そういう訳じゃ無いんだけど……」



言い淀む私の事を見て、真凛は笑みを深くする。



「……真凛?どうしたの?」


「ううん、なんでもないよ」



真凛は笑みを浮かべながら、持っていたラブレターを適当に手でクシャクシャに丸めて近くにあったゴミ箱に投げ入れる。

そして、さっきまでのやり取りなんてまるで無かったように快活に話をし始めた。



「明梨、今日は何食べるの?」


「今日は……天ぷらうどんかな」


「天ぷらうどんか、いいね!私もそれにしよっかな」



こんなやり取りをこれからもずっと出来たら良いなと私は、手を握りながらテンション高く学食へと向かう真凛の横顔を眺めながら想うのだった。













ふぅ……明梨にバレなくて良かった。

あのラブレター、明梨宛のだったなんて。


彼女明梨は私のモノなんだから悪い芽は摘んでおかないと。








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彼女は私のモノ 御厨カイト @mikuriya777

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