第9話
目を開いたら、真っ白な世界。
ポツンと、家が一見立っている。
一度見覚えがある光景だ。
ここを開けたら、双子がいる。
双子に。尋ねなけれならない。『売り払うことができるのか』ということを。
そもそも私は戻りたいのだろうか。
頭の中で葛藤を繰り広げる。
答えは決まらないまま、私は扉に手をかけた。
チリンチリンとドアベルの音が鳴り響く。
「おや、貴女は」
最初に夢に気づいたのは、少年だった。
「またいらっしゃったんですね。どうしました?お気に召しませんでしたか?」
「いえ、そういうわけでは……」
俯きながら歯切れ悪く答える。
満足していた。軽い身体、ハイキングもできる体力。何一つ過去の身体に未練などなかったはずなのに。
「では、どういうご依頼ですか?」
少年の問いに、ぽろっと口がからこぼれ出た。
「『時』を……元に戻すことはできますか……?」
「あれ?じゃあ、本当に気に入らなかったんですね」
少し驚いたような少女の声に、またも自信を無くしていく。
「えっと……」
戸惑っている私を見て少年が少女を引き止める。
「まあまあ、明日香。あまりお客様に問い詰めるのはよくないぞ」
「ごめんなさい」
少女は少し口を尖らせ、私に向かって謝ってきた。
なんとなく、私もぺこりとお辞儀をする。
それを機に、双子は、私に向かって背中を伸ばす。
「お客様、『時』のご返品ですね?かしこまりました。しかし、お客様はご満足頂いていたご様子。そのため、全てとは言いませんが、多少なりのご請求をさせて頂きますが、よろしいですか?」
「まあ、ダメと言っても支払っていただきますが」
どうやら、もう返品するしかないようで、双子は妖艶な笑みを浮かべている。
その笑みに圧倒されて、声を震わせながら尋ねた。
「何を……支払えば良いんですか?」
その不安気な態度を感じ取り、宥めようとしたのか、それとも……
「あぁ、そんなに怯えなくても大丈夫」
「ちゃーんと知っているんですよ……?貴女の望んだ『時』を変えた人を」
今まで聞いたことのないような、ゾクゾクする黒い笑みを浮かべながら、双子は声をそろえた。
「その方から頂きます」
「え……!?」
誰のことかと確認する間もなく、双子に後押しをされて、大きな扉の前に立たされた。
「それでは、今回は当店をご利用頂き、ありがとうございました」
「ちょ……ちょっと待って……!」
「また、ご縁がありましたら、お会いしましょう」
開いた扉の先は闇だった。
「光……!!!」
後ろからトンと押され、扉の中へ足を踏み入れてしまった瞬間、吸い込まれるように闇の中へと消えていく。
「ありがとうございました」
「いやああああああああああ!!!!」
双子の、不敵な笑みが、脳裏に焼き付いた。
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