第8話

夢は口をぽかんと開けた状態で、光に顔を向けた。

『死ぬ』?どういういうことだろう。

私は現在を変えて、『死なないように』なったはずなのに。

「夢、落ち着いて聞いてくれ。俺は、未来から過去に戻ってきた。このままだと、君はあの時屋に大事なものを取られる」

「知っているわ。知っていて、『時』を買ったの……」

その大事なものが何かは知らないけれど。

「君の大事なものは……命だ」

「え……!?」突発的に声が溢れる。

「君がこのままこの『時』を過ごして、満足してしまえば、君はあの双子に命を取られる。未来の君は……今でいう後一か月後に亡くなってしまう」

光は俯きながら肩を振るわせる。

今にも泣きそうな顔で、私の目をみる。

「……見たくない。俺は、君が死ぬのを見たくない」

だが、納得ができない。

健康を望むことによって、死ぬ?私が?

今まで生きてきた中で、今こんなにも身体が軽くて、空でも飛べそうなくらいなのに。

「時屋に行くと、時屋を知らない周りの者全ての記憶が改竄される。だから、俺も途中までは元気な君しか覚えていなかった」

私が現在を変えたから、記憶にあったのは元気な私。

「だが、最近時屋の存在を教えられた。その瞬間、君が病気だった頃の記憶を思い出した。君は言っていただろう?元気になって、俺と一緒に生きていたいって……。それが、君の願いのはずだ」

確かに言った。

光と、光と一緒に。光に心配なんかかけないで一緒に歩んで行きたいって。

一緒に色んな所に行って、結婚して、子供ができて……。

その子供が成人して出て行ったら、老後2人で仲良く暮らして静かに死にたい。

そんなごく普通のことが夢だった。

「だけど……!」

反論しようとすると、光が人差し指を口に当ててきて、言葉を遮られる。

「いいから、俺が時屋まで繋いであげる。だから、売り払ってこい。大丈夫、生きてさえいれば病気は治る。未来から来た、俺が保証するよ」

あまりにも、優しい笑顔で。

真っ直ぐに私を見てくるから。

あんなに戻りたくなかった過去のはずなのに何も言えなくなってしまう。


光は、私の目をじっと見つめた後、頬に手を添えた。

「生きている君に、もう一度会えてよかった……。暖かい君に触れられてよかった。それじゃ、瞳を閉じて……」

その声は、優しくもあり、温かくもあり、今までに聞いたことがないくらい、震えていた。


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