第7話
海が山小屋に入った後、驚くほど周りには誰もいなかった。
聞こえるのは木々のざわめく音と、蝉の鳴く声だけ。
最初に口を開いたのは、光だった。
「……夢、お前『時』を買ったか?」
夢は言葉を失う。『時を買う』というワードが彼の口から出てくるなんて思いもよらなかったからだ。
続け様に彼の口からは夢しか知らないはずの単語が飛び交う。
「時屋の存在は、時屋に行った者しか知らない。俺も友達から噂話を聞いて、さっき訪れたばかりなんだ」
訪れた?あの双子がいる場所に?
混乱している中、光の口から提案されたのは予期せぬ言葉だった。
「夢、時屋に戻ろう。元の『時』に戻してもらうんだ」
「……!?なんで!?嫌よ!」
元の時に戻る。それは、あの病院で寝たきりの生活に戻るということだ。
過去を思い出す。毎日、外を眺めては羨ましく思いながら、痛い治療を受ける。
注射だって本当は嫌だ。トイレに行くだけでも疲れ果てて動けない生活なんてもう真っ平だった。
「私はもうあんな生活に戻るのは嫌!!光だって毎日お見舞いに来てくれていたけれど、本当はめんどくさかったんでしょう?今のままでいいじゃない!」
「夢……落ち着いて!夢……!」
取り乱す夢を止めようと、光は必死に夢を抑える。
「嫌よ!戻るのは嫌!」
「今のままでは、君は死んでしまう!!!」
夢は急に動きをとめ、聞こえるのは木の葉の擦れる音と、蝉の鳴き声だけとなった。
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