第6話

先に広場についていた海にやっとの思いで追いついた。

追いついた頃には、息はキレキレで。でも、それでも心臓は今でも動いている。

心地よい疲労感だけが、身体を支配する。

「はぁはぁ……。えへへ、私こうやって走り回るの、ずーっと夢だったんだ!」

「ん?どういうことだ?」

ハッとした。

そうだ、現在<いま>の私は、ただの一般的な健康な少女。

寝たきりだった、あの時とは違う。

そう、違うのだ。

「……ううん。なんでもないよ。」

過去の私はいない。いないのだ。

喜びと共に、複雑な感情が入り混じり、俯きかけているところだった。


「夢!」

突然、誰かが抱きついてきた。

驚き、顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。

「……光!?どうしてここに……」

「よかった……まだ……まだ……」

声を震わせながら、光は強く夢を抱きしめていた。

「ちょっと……光……!?」

あまりの突拍子もない行動に、夢は戸惑いを隠せない。

こんなに取り乱した彼を見るのは初めてだ。

少し身体を離し、夢の頬に手を当てながら光は瞳を震わせていた。

「あったかい……まだ、あったかいな……夢……」

「ちょっと、どうしたのよ……」


その光景を圧倒されて見ていた海が徐に声をかけてた。

「えっと……光君?たしか、夢の彼氏だったよね……?君がどうしてここに?」

最もな質問だ。

私は光に今日ここにいることは伝えていない。

まあ、現在の私が過去に伝えていたと言うのなら話は違うが、だとしてもこの涙と不安気な表情と辻褄が合わない。


光は今まで見えていなかったかのように海の存在に気づき、私から離れて海の方へ身体を向けた。

「あ……夢のお兄さん。すみません急に……。あの、ちょっとだけ2人きりにしてもらいませんか?」

怪訝そうな顔をしていた海も、光の必死そうな表情を見て、何かを感じたようだ。

「……あぁ、わかった」

海は、広場の端にあった小さな山小屋へと入っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る