第65話 マフィンを食べながら

 ぽいっと、クレールコーヒー豆を一粒口に入れ、缶を両手で握る。

 魔素を流すがダメだ。

 口の中でカシっと噛んで、ジャミっと歯ですり潰す。

 う、ちょっとオエッ。

 集中集中! と気合と魔素を込めるも、やっぱりダメだ。


 カフェオレでコーヒー豆のじゃりじゃりを流し込む。

「ふえぇ、美味しいもんじゃないね。

多分ね、コレうまくいかないのはさあ。

豆じゃダメっていうより、口に中の味覚と、脳が想像する明確な味とが、一致しないせいだと思うのよ、私は」


「そうかもな〜」

「なるほど」

2人は相槌を打ちながら、バナナマフィンを食べ終えていた。


 味見をしなかったやつ、胡桃レーズンを先に食べたがったが、「私がバナナから食べるべし!」といったからだ。

 複数のお菓子を食べるときは、味が淡いほうからが鉄則ですもん。


 私はマフィンの半分、彼らは1個づつぺろっと平らげた。

「口に入れるとほろって崩れおちる感じがいいな」

「優しい甘さと風味で何個でも食べれるね」


「この崩れ落ちる感は、粉の混ぜ方の良し悪しにかかってるのよ。腕の見せどころだね。ねっちゃすとバサバサの食感になるから。

小麦粉のグルテンって聞いたことある? 粉使うお菓子の時は、説明時によく口にする単語だね『グルテン』って。

さっき『ママのおやつ』って言ったけど、普通のママが作ったのは、そのグルテン大発生で、確実にもっと硬くてぎゅっと詰まってるよ。きっとね」


 残った半分と、ラスト1個のバナナマフィン。

とりあえずガラスの蓋付き器にしまった。


「それにね、このおやつ、次の日になるとさ。『え!なんで?!』ってぐらい食感が変わっちゃうの。全部口の中水分持ってかれちゃうっていうの? そんな感じ。急にありがたみが薄れるんだよね〜。

だからとっとかなくて今日全部食べちゃってもいいよ」


 じっと誰のものでもないバナナマフィンを見る2人。


「胡桃レーズンを、まずはおひとつどうぞ」


 私も早速。

 白ワインに一夜漬け込んどいて、ふっくらしたレーズンが、胡桃と共にマフィンによく合う。


「ねえ、ラム酒ってこっちにある?」


「ああ、あるよ。ただこの家には置いてないね」

クレールがちょっとすまなそうに答える。


「そっか〜。焼き菓子にはわりと、そのお酒を使うの。このお菓子は、そのラムレーズンにしてもおいしいと思うけど。

でも、優しい感じのおやつだから、白ワインで水分を含ませて、ふっくらさせるだけのほうが似合ってるかもね」


「コニー。この家にある酒や、この世界の酒なんかは俺が説明してやるな」

エタンが頬杖をついて、こちらを向きながらニヤリとする。


「頼もしいね〜。エタンはお酒好きなんだ。飲んでも強いの?」


「まあな! 好きだし強いな。

コニーはそんな強くないだろう? 昨日ころっと寝ちゃったな。いつもそうか?」


「う〜ん。強くないけど、酔っ払ってすぐ寝ちゃうほどそこまで弱くもないんだけど……

そうだね。とりあえず数口で顔が真っ赤になっちゃうから恥ずかしくて、外では気が合う仲間としか飲みたくないな。

3〜4杯ぐらいで、もうよしといたほうがいいかなぁ。酔っ払って前後不覚になったりしないけどさ。なんかいろいろどうでも良くなって、ざっくりしちゃうんだよね〜。

それに夜はやっぱ眠くなりやすいかな。

お酒とは関係なくて、実は私さ。

眠いのに起きてなきゃなんない状態が続くと、最後ぐだぐだで訳わかんなくなっちゃうから。

泊まりがけとか自宅飲み以外ではあんまり飲まないように気をつけてるんだ」


「マジか。俺らもその辺気にかけておくわ」


「コニー……これから王宮とか、おヌル様としてパーティーとか参加するとき気をつけてね。変なのに気を許したり、美味しいからって飲みすぎないようにね」


 うっ! 美味しいのが出たとき危険だわ〜。ちょっと良いもん出てきそうじゃない? おヌル様がお呼ばれするパーティーなんて。


「ああ、うん。気をつけるよ。

赤ら顔でご挨拶なんてやだから飲まないと思う。

それと昼は眠くないから、おかしなことになった経験はないよ」


 そうだ、昨日なんか変なことを。

 最後に口走ってなかったか、ちゃんと聞かないと。


「昨日のソファーで寝落ちしちゃう直前ね。

恋人が昔居たけど今いないとか、地球での両親が他界したとかをね。話したのは覚えてるんだけど……」


 うう、このタイミングで聞かないでいつ聞く!

 さあ聞け!


「そのあと残りのロゼワインを一気に飲んで。

そしたら急に睡魔に襲われて眠くなっちゃって……。

ねえ、最後、私どんなこと話してた? 変なこと言ってなかった?」


「そっか……。半寝してたんだね、あれ。

ううん。変なことは何も。

大事な飼い猫が死んでしまったことを教えてくれたよ。

それと、お兄さんがいて。建て替えのために、住まいとケーキ店を取り壊すから、ちょうどどうにかしなきゃいけないところだったって。

それを普通に教えてくれたぐらいかな。

そんであっという間に寝ちゃった、それだけ」


あ、そんな程度か。

事実を語っただけみたいだね。

まあ別に隠さなきゃいけないことも、なんもないけどさー。

泣いたり騒いだりしてなくてなによりです……。


「飲み過ぎたわけじゃないのよ。起き上がった初日から張り切って、なんか疲れちゃったみたいで……」


「ああ。酔っ払ってるっていうより、動力切れって感じだったな。こっちこそ気づいてやれないですまなかった」


「いやいや、そんなん自己責任だよ〜。

子供みたいで私ってば恥ずかしいね。しっかりしなきゃ、私こそホントごめんね。

さあて。今度は単体じゃなくて、素材が混ざってるものの検証に移ろうか。ね?」


 ブレンド豆のことと、これからやりたい2つの実験があるんだ。





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【次回予告 第66話 空の青さもシャンプーも】


次回はあとがきに、作者号外通信をめぐって、3人の会話文によるちょこっとストーリーが、オマケに書き下ろしてあります。お楽しみに(*´Д`*)



近況報告「ヨムヨムさんヘ⑤読み専様宛)」

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