第63話 瞳の宇宙

 エタンの持ってきてくれた宿舎コーヒーをドリップして飲んでみる。


 あ、あんま美味しくない……。

 いや、ぶっちゃけ不味まずい。

 シアトル系の端に踏みとどまれず、崖から落ちてしまった感じ。

 昔ケチって、業務用肉屋で試しに買った一キロ爆安コーヒー粉の味に似ている。


 鏡で見ると、舌のキラキラは消えていた。

 ほう。

 コーヒーはコーヒーでも種類が違うと判断したんだね、なるほど。

 だからブレンド豆がうまくいかなかったんだな。


「はは! この味だぜ。コニーの美味うまいの飲んだあとだと、いつもの宿舎のはことさらマズいな。

いや、ジャンケンに負けたやつがヤカンにぶっ込んで作る、マズい豆をさらにマズく淹れるコーヒーを超えるもんはねぇけど」


「僕は宿舎では紅茶にしてるからなぁ」


「でもなんだか楽しそう。ねえ、今度私も宿舎の食堂に行ってみたいな」


「はあ?!」

「ええ!!」


 むぅ、色良くない反応。

 まぁ、王様への報告が先か。


「あのさ、私のキラキラ舌が元に戻っちゃったね。

もっかい記憶力と舌の連動させて、実験続けるね。

じゃあ、ピカらせるから、えっと、撮影頼んでもいいかな?」


 クレールは動画、エタンは写真を撮るそうな。

なんか恥ずかしい……。

 真正面は避けてもらって、せめて斜めからお願いします……。


 宿舎コーヒーを口に含み、イメージを強く頭に描いて魔素放出。


 ピカッ! きた。


「やった! いいねコニー! こっち向いて! 可愛く撮れたよ!」

 クレールが孫を撮るお祖父ちゃんになってるし。


 嚥下えんげして…… ? あれ?

 手に持ったコーヒーカップのほうからも、慌てて一口。


 やっぱり違う……。

 似てるけど、さっきのクレールのコーヒーをピカらせて作ったペルー味とは……確実に違う。


 ココット型にて、魔素を流してペルー味に変えたはずの宿舎豆。

 それを急いで挽いて、淹れて飲む。

 うむ、宿舎もん同士は共通の味だ。


 では。

 一度失敗した、ココット型に入ってるブレンド豆に、再チャレンジで魔素を流す。

 ダメだ。

 なるほどね、それならば……


 一種類、一つの豆の味を追っかけて、集中!

あの味だけ引き寄せて、ペルー味の記憶に魔素を乗せて流し込んで……

 

 ピカッ

 やった! 成功!!!


 その後、次々淹れては味比べ。

 五パターンのコーヒーの味を頭の中で整理して、考察を組み立てていく。


 分かりやすいようにコーヒーカップには、あの黄色と緑のマスキングテープを貼って区別する。

 クレールの家にあったコーヒーと、エタンの持ってきてくれた宿舎コーヒーって意味だ。


 魔素を流し味変させたやつには、テープへ星マークの書き込みを。

 豆を味変して淹れたのは、黒丸を追加。


 さてと……。


「フレンチプレスの以外、一通り終えたから休憩して、喋りながらおやつにしよっか?」


「え? ああそうだね。そうしよう」

「やっとマフィンが食えるな!」

クレールとエタン。

 回し飲みも終え、それぞれが自分のスマホ画面から顔を上げて答えた。


「あ。撮れてるか画像のチェックね。気になる! 見せて見せて!」


 エタンが隣からひょいと写真を。


「見ろよ、よく撮れてる。ちょっと口尖らせてて可愛いな」


「な! これ真剣に淹れてるときで、瞳関係ないじゃん!」


「ホントだ。可愛い。エタン、僕に送ってくれ」


「もう〜! 変なの撮らないし送らないで! あとで消してよね」

2枚目顔のカップに口をつけるアップ。

そして3枚目のさらにドアップに例の瞳が。


 綺麗な群青色だった……。


 ど真ん中の瞳孔は漆黒。

 それを取り巻く虹彩は深く澄み、暗い色と少し明るい色が混在し、夜空、はたまたもっと遥か遠くへと続く宇宙のようで。

 群青色の吸引磁石に、心が吸い寄せられ惹き込まれる。

 エタンやクレールの瞳みたく、ダイヤモンドの煌めきの粉が舞い……そして


 星が何個も飛んでた。


 シリウスみたく明るいのやら、か細きもの含めて数多あまた、少女漫画みたく、文字通り星が。

 瞳の宇宙でまたたいてる。

 なんとまあ不思議な……。


 うん、ひとことで言うなれば


 派手!! 

 ナンジャコリャーーー!!


「こっちのビデオもちゃんと撮れてるよ」


 エタンと私の真ん中にクレールが割って入り、再生。

 3人で顔寄せ合って、動画再生を見る。

 

 私自身の目がピカッたからそう感じていただけで、実際はフラッシュみたいにはなってなかった。

 一瞬で瞳の色が変わり、ふわぁと5秒ぐらいかけて、キラキラの細氷さいひょうが溶けて空気に消えると共に、色も元に戻っていった。


 ふあぁぁ〜 ますます不思議だ。

 もはや、他人事気分。

 

「……なんだか凄いことになってた瞳だねぇ」


「コニー……これはヤベぇよ。何度見ても釘付けになっちまう」


「ほんとなんなの。コニーの瞳、宇宙と交信してるみたいだった。

美し過ぎるよ、この瞳は。

ほんの一瞬とは言え有象無象うぞうむぞうに見せたくない。まずい……誘拐されちゃう」


 なんなのって……知るかいな。

 しかも親バカ褒めすぎ過保護発動させてるし。

 私が言いたいのですよ、「なんなの」って。

 ええ、そうですとも! 虹の方様にね!!!


「エタン、クレール、大丈夫。人前でやんなきゃいいことだから。

そもそも出された食べ物や飲み物の味を勝手に変えるって、失礼過ぎじゃん。

なんでこの色かは分かんないけど、群青色はね、私の一番好きな色だよ。

キラキラの舌より、うん、綺麗で好きになれる気がする、かな?」


 舌が光ったときと違って、もう私の腹はくくれてる。


 さ、おやつおやつと、2人を促した。





【次回予告 第64話 おセンチカフェオレ俺は?】



𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣


頭がごちゃごちゃする実験は終了です。

職人気質のコニーの熱心さが存分に発揮され、実にしつこい(笑)

コニーも読者さまもお疲れ様でした!

次話はこの結果を検証しながら、三人できゃいきゃい楽しいおしゃべりタイム。


 コニーの舌と瞳のキラキラの仕方は、普通の人や歴代おヌル様とは違って、とても変わっています。

 クレールもエタンもみんな、キラキラしてる部位は、最初っから輝いているので、出たり消えたり変化しません。



 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る