第49話 魔石はゼロかクロ?

「もちろん! そんなの取り敢えずやってみるに決まってるじゃん。

別に痛いくもしんどいくもないんだよね?

ダメだったら、条件変えて何度も試してみればいいだけだし。

それに真っ黒いのができちゃった暁には、2人で思う存分甘やかしてくれるんでしょ?」


ニヤリとエタンを見返す。


「はは! そう言うと思ったぜ。

コニーは比べるとか実験とか大好きだもんな?

万が一黒かったら、言われんでもめっちゃくちゃ俺らで甘やかすし。

おっし! 早速やってみるか。両手を出してくれ」


 すぽ、すぽ、とカバーをはめてくれた。

 伸びるタイプとはいえ、大きくてあんま意味ないから、やっぱり取ってもらう。


 「じゃあやるね~」


 ソファーの上で胡座をかく。

 目を瞑る。

 昼間のコーヒーの時と違って、やるべきこと、考えるべきことが明白にあるので集中し易かった。


 肩の力を抜いて、軽く手を握って。

 手の中に温かい「気」が集まるイメージ。


 幼い頃。

 転んだ時に爺ちゃんが。

 お腹痛い時にお母さんが。

 掌をほんの少し曲げる様にして、痛い所にかざしたり摩ったり。

 なぜかほんのり温かだった、あの「手当て」を思いながら。


 どうか魔石が生まれますように

 自分の魔石を見てみたい

 いっぱい作れたらいいな

 出来たらエタンとクレールにプレゼントしたい

 私リンゼル島で、ここで生きていくんだ! 

 お願い……魔石カモン!


 そんなワクワクやドキドキ、決意を込めて祈る。


 不意に、握り込んだ手の中に、ぐわっと質量と熱量が増した。

 慌てて目を開くと、手のひらにどこからともなく虹色に光輝くビー玉が、後から後から湧いてくるさまが見えた。


 溢れないように急いで両手をくっつけて、もっと出ておいで~と見守っていると、たなごころのお椀の中に、虹色の光玉の山がこんもりと出来上がった。


 うぉぉおおお!!!!

 凄い! 大成功だ


「エタン、クレール、やったよ!! これ見て!!」


 手元の魔石から顔を上げ、喜び勇んで2人の方を見やると、口をあんぐりと開けて呆然と虹の光を見入る、というより魅入られたクレールとエタンの姿があった。


 まるであの初対面のシーン。

 出揃った彼らを見た私の驚きっぷりに、匹敵するぐらいのあんぐりさだ。


 「初めてにしては上出来じゃない?! 見て見て、いっぱい作れた~。めちゃ嬉しい!!」


 ずいずいと彼らの前に手を突き出す。


「あは……あははは。コニー……。こんなのって。ねぇ本当に? ……凄いよ! 凄すぎる!!」


「マジかよ……夢じゃないよな、これ」


「ああ! まさに俺ら歴史的瞬間に立ち会ったんだ、エタン!」


 2人とも我が事の様に喜んでくれてる。

 魔素なんか存在しない世界からきた地球人が、こっちで魔石を産んだんだもの。

 保護者としては赤ちゃんが立ち上がった瞬間を目撃って感じだよね。


 一緒になって喜んでくれて嬉しいけど、ちょっと表現が大袈裟過ぎて親バカっぽくないか?


 クレールが一粒摘み上げ、エタンも一粒、まじまじと食い入る様に見つめ出した。


「ねぇ、これどこかに一旦置きたいんだけど……」


「あ、そうだね! ごめんごめん」


 楕円形の籠に布巾を敷いて急いで持ってきてくれた。

出来るだけそっと、じゃらじゃらと移した。


「コニー頑張ったな! よくやった!! それにしても凄い量とスピードで、度肝を抜かれたぜ」


「コニー。本当にお見事だった!! 素晴らしいに尽きるよ! 

それにしても、こんなまん丸な形の魔石は見た事ないや。虹色で綺麗だ……」


 エタンもクレールも、そしてもちろん生み出した本人である私自身も、興奮さめやらぬまま魔石を手に取り、感想を言い合った。


「そういえばエタンのとは、形が随分と違うね」

少し薄べったい楕円形の、艶々した鮮やかなスペアミントグリーンの石を手に取った。


「この形。河原で水切りしたら、ピュンピュンて何回も飛び跳ねてくれそうな良い形だよ」


 右手に持って、手裏剣を飛ばすようなフォームを繰り出し、「プシュウッ」って効果音を口でつけながらエア水切りした。


「ブハッ!! なんちゅーことを。

クレールの魔石って、人気があるからオークションでものすごく高値がつくんだぜ」


「魔石省主催のオークションがあるんだ。コニーもいつか出してみると良いかもね。ちなみに魔石は魔石省を介さないでの売買は全て違法だよ」  


「生み出された魔石は、生み手によって色も形も大きさも千差万別だ。

まちまちな大きさの魔石砕いて、光の湖を用いて培養し、あの筒型の規格サイズに加工するのが、俺の具体的仕事ってわけ」


 ほえ~、そうだったんだ~。


「いっぺんにいろんな事を詰め込んでもね。何かの折に触れて、コニーがこの世界のことを少しづつ知っていけばいいと僕は思ってるんだけど。

僕らと過ごす中で、会話の中で、自然に疑問に思ったことを質問したり、ちょっとずつ知ってることが増えていったりさ」


「なんとなくな。家庭教師雇ってガンガン勉強していくってたまでもないだろう?

とはいえ、まあ主にクレールが毎日時間を決めて、勉強時間というかコニー専用時間を設けるから、安心して何でも聞くといいぜ」


「お~。よく分かっていらっしゃる。

ええ。ぜひその方向でお願いします。

てゆうか、ガンガン勉強して詰め込みたい!って人そんないるかな?」


「んーどうだろう? 俺っつうか大概の男なら、なるべく早くこの世のことわりを身につけて、即効その世界でやってけるか挑戦したいんじゃねーかなぁ」


「蛍様の時は、年齢がね。学生だっただけに、学校にすぐにでも通いたがられたから」


「あ、そっかー。なるほどね~」


「実は、ネックレスの確認して魔素や魔石の大事な話を伝えた後、そろそろ極内密に僕たちの母親にだけコニーの事を伝えようかと、2人で打ち合わせしてたんだけど……。

ほら女性の服やら、他にも必要なものやらあるでしょう? 食糧の仕入れにしたって、2人分から3人に増えたり、いつもと違ったものを買うのも変だし」


 チラリとクレールがエタンに目配せをした。


「ただ、コニーがこうもたくさんの素晴らしい魔石が生み出せるとなると……」


 ん??

 この魔石がなにか?


「魔石作れる人間を守る法律があるつったろ? そのうえこちとら手出し無用のおヌル様だ。

だがな……。そうはいってもうるせー外野が、ハイエナやウジ虫の如く、切っても切っても、湧いて出てくること必須だ。

虹の院への連絡はもっと対策を練ってからの方がいい」


「エタン。そこは美しい花の蜜に集まる虫のごとく、ぐらい言おうよ。

もちろん僕らの母親たちは口が硬いし、絶対の信用を持って味方だと言える。だがこういったことは、どこでどう誰が聴いてるか、秘密が漏れるやもしれないんだ。

だからあと少なくとも2日。

コニーが知りたいこと、聞きたいこと、得意なこと、やってみたいこと、嫌いなこと、興味があること。

この3人で話し合って、付け入る隙を少しでもなくしたい。」


 クレールは自身の膝の上に腕を乗せ、指を組み合わせて前のめりの姿勢になった。

 私を真摯しんしに見つめて話を続けた。


「お互いのためを思って、良かれと思って、遠慮しあって、すれ違うこともあると思う。

でもそういうのは無しだ。ちゃんと伝えていこう。

気が合ったとはいえ、コニー……僕たちは出会ったばかりなんだ。トリオで絆を、連携を深めてから臨みたいと僕は思う。

コニーは虹の院への報告については、いつがいいとかなにか希望はある?」





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【次回予告 第50話 そこに愛があるならば】











 





 




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