第16話 バリアフリーのリビング&ダイニング

 洗面所を出てリビングに向かうと、バリアフリーの廊下なので、そっちのほうから話し声が聞こえてくる。

 エタンさん帰ってきたのかな?


「お待たせしました〜。洗面道具ありが……」


 ソファーに座ったエタンさんらしき人がこっちを振り返って、

「よお。眠り姫さん、おはようさん」

 ニカッと白い歯をキラリとさせて笑いかけてくれた。


 何ということでしょう……。

 髭むっさロン毛ぼっさでも相当カッコよかったエタンさんですが。

 もうね、真っ昼間からね、ラテン系の色気がむわわんと垂れ流されているではありませんか。


 髭をさっぱり剃った事で、シャープなあごのラインが際立ち。

 ツヤツヤのチョコレートガナッシュみたいな焦茶色の髪は、後ろで一つにスッキリと束ねられて。

 あらわになったひいでた額と凛々しい眉のすぐ下には、キラ星のごとき金の瞳。


 射抜かれない婦女子はらぬでありんすよ。


「おはよう。お帰りなさい、エタンさん。

起き抜けに男前から大人の色気を浴びせられて、思わずほうけちゃったよ」


「マジか、作戦成功だぜ。

おヌル様マニュアルにな、『女性のおヌル様は〈イケメン〉好きだから、バリっと決めてトキメキを持ってお迎えせよ』つうのがしょっぱなに注意事項として書き込みされててさ。

俺ら二人寝起きのまんまでお出迎えとか、真逆すぎて笑えるよな」


「初対面の時、正直まあちょっとだけなんでその格好? とは思ったけど。それでも元の作りが良いので、出会った時から二人は十分にカッコ良かったよ。

ばっちりトキメいた。あはは、安心して!」


 さあ、エタンさんに本題だ。


「あの、私お風呂で寝ちゃって……。ホント大変な思いさせてごめんなさい。

でもよく寝たせいか、お陰様ですっかり元気取り戻せたよ。心配してくれたんでしょ? ありがとう。ごめんね」


「いや、コニーが目が覚めて元気になったのならそれだけで何よりだ。

クレールから聞いたと思うが、俺たち天地神命に誓って見てないし不埒ふらちなことはして」


「も、もうその件は大丈夫!! 何度も言われるほうが逆に恥ずかしいから!

お二人とはさ、出会ったばっかりだけど、最初からずっと私に紳士的な態度で接してくれて。私二人のことは信じてるから……。

それにエタンさんもクレールさんもこんなにカッコいいんだもの。私みたいなチンクシャ相手にせずとも、恋のお相手で充実してそうだし」


「チンクシャって……。コニーはとっても可愛いよ。むしろ可愛いのかたまりだから」


「そうだな。コニーが可愛いのも、俺らがおヌル様に紳士的だったのも合ってる。ただし恋のお相手つうか恋人はいまは二人ともいないけどな。

さてと。コニーが気にしてないって言ってくれてるんだ、これでこの話は終いだ。さあ飯にしようぜ」


 きゅるるる~


 あまりにちょうどいいというか、絶妙なタイミングで私のお腹が鳴った。


「こんなに可愛い食事の返事をもらったんだ、急がないとね」


 腹の音が可愛いって、そんなフォローさらに恥ずかしいっ!

「私も何か手伝うね!」

 誤魔化すように大きな声で申し出てみた。


「もう皿によそるだけだから座って待ってて。エタン、オーブンのスイッチ入れてくれる?」


「あの、でも、運んだり一緒にしたい。それに台所のほうも見てみたいから。ダメ?」


「そ、そんなふうに言ってくれるなら喜んで」


 ほんのちょっぴり頬がピンク色のとびきりスマイルで、さっと手を差し出すクレールさん。

 目と鼻の先の台所行くのにエスコート……


 彼のポリシーかな? 

 こっちの世界はわりと女性に対してそうなのかな? と思いつつ、ぽふっと素直にお手をする。

 うーん、私のほうが慣れなきゃいけない案件なんだろうなあコレ。


 とにかくバリアフリー。

 リビングのソファー横の空間にはグランドピアノ。

 その反対側、廊下やエタンさんのいる方面の横窓際には、ルームランナー。

 

 今いる奥のほうは、なんにも無い広い空間。

 途中から天井が吹き抜けじゃなくて、普通の高さだからクレールさんの部屋の下にあたるのね。


 ピアノや階段のある逆方向、トイレに近いほうにシンプルな金属の棒が一本上に伸びていて、二階の手すりと連結されている。


 その奥には大きなアイランドスタイルキッチン。

 こっちから見える面は収納があったり、スツールが二脚ある場所はちょっと台の下が引っ込んでいて、座った時に足が入れやすくなってる。


 もしかしてあのなんにも無い空間て、本当はダイニングテーブルが置いてあったんじゃないかな?

 男二人だから面倒臭いし、あのスツールかソファーで食べてるのかもね。 


「こっちのがわで調理するんだよ」

と、奥の方に案内してくれる。


「わあ、立派! 家庭用じゃないみたいな設備だね、すごい!」


 三くちコンロ、シンク、その下の作動しているのがおそらく大きなオーブン、たくさんの収納扉。

 うしろの壁側の上も下も多くの収納に、作業台、

 大きなシンク2つ。


「あっちが冷凍庫、こっちが冷蔵庫、この小さな扉が半地下の貯蔵庫の入り口。

あと開発仕事の関係上、調理魔道具もかなり充実してるよ。これがトースターとマイクロウェーブ電子レンジ。戸棚にしまってあるけど、ミキサー、フードプロセッサー、魔導泡立て器、炊飯器もあるよ。この下は食洗機」


「ふおお~地球と変わらぬ〈家電かでん〉が勢揃い! すんごい!」


 しかも炊飯器とな!?


「うん、おヌル様達の希望やアイデアを聞いて、共にこの世界で開発をしているからね。動力や仕組みがそっちにはない、こちら独自の魔素や魔道具回路を使用しているけれど。

あ! ごめん。僕もエタンもさっきからおヌル様連呼してる……」


「あ、えっと、私に対してその名で呼びかけられるのがちょっと気になっただけで、その単語自体は禁止用語にしなくても全然平気だよ。気を使ってくれてありがとう」


「分かった。うん、それなら助かるかも。実はちょくちょく『言ってしまった』ってなってたからね」


「クレール、ソファーで食べるか? それとも俺の部屋から折り畳み椅子もう一脚持ってくるか?」


「そうだな、持ってきて貰えると助かる。いつも通りカウンターで食べよう」


「ん」


 クレールさんがカトラリーの入った引き出しを開け、スプーンとフォークを、そして小皿を配るよう私に頼んだ。

 そして彼は、冷蔵庫からレモンの輪切りの入ったお水入れを出し、水切り台からグラス二個、そしてうしろの戸棚から追加で一個出した。

「この水をそそいで配ってくれるかな?」


 その間に彼は、オーブンで温めたパンを出し籠に盛り、コンロの火を止めて、鍋からスープをよそった。


 椅子を持って来て先に自分の椅子に座っていたエタンさんは

「コニーここどうぞ」

 隣のスツールをぽんぽんと叩いた。






【次回予告 第17話 ミルクスープ (前編)】



𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣

ようやっと次回からタグ・グルメの片鱗がちらり。

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