第13話 脱衣所にお邪魔しまーす (クレール視点)

******(クレール視点)


 一番下の奥の奥、薄紙に包まれたそれを引っ張り出す。


「あった」


 この土産物がまさか日の目を見るときがこようとは。

 ピンク地に黒い猫の足跡柄。

 よく見ると黒猫の頭が、間違い探しのように数個混じっている。

 伸縮性のある衣類なのでとても小さく見える。

 これで男性向けだなんて嘘だろって感じだ。

 逆に彼女が履いたら伸ばすというより丁度いいかもしれない。


 ド派手な柄物と合わせるのだから上は無地の白っぽいのがいいかな。

 まずは僕の買い置きの新品の肌着っと。

 小さな子じゃないんだからブラジャー着けてるよな……ダメダメダメダメ考えんな!

 そんなの用意できるわけもないから、せめてシャツは透けない厚手のものにしよう。


 エタンのチュニックを着て、余った袖を振って笑っている彼女、ものすごく可愛かったなぁ。

 アイツのじゃなくて、僕の服を着てはにかむ姿が見てみたい……。

 上書き願望ってわけじゃないけど、同じチュニックタイプをつい選んでしまった。


 たまたま、ほぼ着てないやつだし、厚手だし、クリーム色の無地だし。

 僕の瞳の色に紐を合わせて、母上がいつぞやプレゼントしてくれた物。


 さっきサウナが「好き」と言った彼女。

 彼女が単に「好き」って発しただけの言葉に、ドキドキしてしまった僕は馬鹿みたいだ。


 好きな子が自分の色を身につけたら、実際どんな気分になるだろうか?


 いやいや、コニーにこのチュニックを選んだのはたまたまだ。うん、たまたま。


 僕も寝巻きから急いで着替えないと。

 こんな格好で出歩いて、ひざまづいたときに泥まで膝に付けて、ほんとカッコつかないや。


 コニーへの籠を用意して、出てくるまでの時間にあとは……。

 洗面台はコニーがお風呂に入ってるから使ったらダメだろ?

 髪は自室の携帯用ブラシで、洗顔は台所で。

 髭は僕のは目立たない色味だからあとで剃るのでもやむなし。


 よし! 声掛けるぞ。


「コニー。着替えを持って来たから、今脱衣所に立ち入ってもいいかな?」

 衣装室と脱衣所を繋ぐドアをノックする。


「コニー開けるよ? いいね?」

 大きめの声でもう一度言ってから、そろりとドアを少しだけ開け隙間から、

「お邪魔しまーす」と再度断りを入れて中に入った。


 籠に湯上がり用タオルと髪の毛用のタオル、そして着替えを入れ、入口の足拭きマットのところに置いた。


「置いといたよ。すぐいなくなるからね」


 あれ? 水音もなく静かだから聞こえてるはずなのに返事が無い?


「コニー?」


 返事はやはり無い。

 静か過ぎる??


「ねえ、コニー? お風呂どお? 問題ない?」


 ……


「コニー? コニー! 大丈夫? 具合でも悪い?」


 ドンドンと風呂場のドアを叩く。


 ……


「コニー? コニー! 大丈夫なら返事して?!」


 ……


「ねえ! ……ごめん! 悪いっ! ちょっと開けるよ!!」


 ドアを開けるとそこには……。


 もわもわと湯気が立ち込める浴室内、湯船の中で口元までお湯に浸かった状態で、目を閉じて意識のない彼女がいた。




******(クレール視点・終)






【次話予告 第14話 目覚め】




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