第4話 アンポンタンポカン(三人称視点のちコニー視点)

******(三人称視点)


「おーい! 今いくぞー!!」

 森の奥、遠くから男の声がする。 


 しかし今のコニーは、耳に届いてる筈だがこれっぽっちも聴いちゃいない、聞こえていない、そんな状態であった。


 声がするや否や後方森の奥より、地面の土や落ち葉やら枝屑を舞い上げ、疾風と共に男が現れた。


 その男は乗り物のようなものからバッと飛び降り、へたり込んでいたコニーに後ろから素早く駆け寄った。


 がしりと、その大きな手をコニーの肩にかけ。


「しっかりしろ! 大丈夫か? 呼吸は? 意識はあるか? 俺の言ってること分かるか?!」


 覗き込むように顔を寄せ、男は矢継ぎ早に大声で話しかけた。


 乱暴に身体を揺さぶられたりはしないものの、突然肩を掴まれ、大声をかけられたのだ。


 茫然自失のコニーが受けた驚きたるや、大きな衝撃と言わずしてなんと言おう。



******(三人称視点・終)





 え!!? 今度はいったい何が!?


 振り返ろうとガバッと横を向いた瞬間。

 私の目に飛び込んできたのは、髭面ロン毛のガタイのいい外人顔の男のドアップだった。


 ひぃぃ!!!


 思わず無言で横っ飛びで退き、男の大きな手を振り払う。

 人間あまりにも驚き過ぎると、キャーとかうわぁとか声にはならなかったりするものだ。


「あ、いや。驚かせてすまない。お、俺はけして怪しいものでは……」

 男は慌てふためいてはいるものの、先ほどの切迫した語気を打ち消すように、静かに落ち着いたトーンの声へと切り替えた。


 私の肩にかけていた手は、振り払われた今や、そのまま宙に浮いている。

 そして申し訳なさげに眉を寄せ、自身の膝の上に下ろした。


「具合は大丈夫か? 声はでるか? 俺の言葉は通じているか?」

 再度、幾つもの問いを私に投げかけ始めた。


 私の心臓は、未だばっくばくの尋常じゃない勢いのままだ。

 男と無言で見つめ合うこと数秒。


「おーい!! エタン! おヌル様はご無事かー!?」


 今度はさらにもう1人。

 男の後方森の中より掛け声と共に、キックボードのようなセグウェイのような乗り物に乗って、ものすごいスピードでこちらへと向かってくる。


 気がついたらあっという間に近くにまで迫っていて、キッと乗り物を停め颯爽と飛び降り、流れるように私の目前にひざまずいた。


「私は王家森番、クレール・アルコンシエルと申します。

おヌル様を保護しに馳せ参じました!」


 目の覚めるようなキラキラ輝くオレンジ色の長い髪をした、外国人モデルばりの美男子。

 パジャマ姿で、宝石のように煌めく明るい緑の瞳で私を見つめながら、そう言った。


 驚き過ぎた時って、漫画みたく思わず口があんぐり開くもんなんだなぁ。

 アンポンタンポカンとなった私は悪くない。

 だってこんな白昼夢、ドグラマグラ過ぎる……。


 ドン冷えの卵白を頭から被り。

 なぜか死ぬほど息苦しい思いをして。

 助かったと思ったら、深夜の工場ではなく昼間のキラキラしい森にいて。

 見た目インパクト強な外国人男性が次々に現れ。

 ノリこそ違うが二人ともハイテンション&ペラペラな日本語で、私にぐいぐい話しかけてくる。


 本日三度目のフリーズ中。


「おい。エタン。いったいどこまでおヌル様にお伝えしたんだ?」


「いや、何も。『大丈夫か?』って話しかけただけだ。

そういや彼女まだ一度も口を聞いてないな。会話ができないのかも……」


 目の前の二人の男のやり取りに、慌てて私は口を挿んだ。


「わわ、大丈夫です! ちゃんと仰ってること理解できてます」

 あとから来た人が余りに素っ頓狂過ぎて、彼が何を言ってたんだか、いまひとつ聞いてなかったけれど……。


 へたり込みポーズから居住まいを正すために、もぞもぞとゆっくり動く。

 よし、ちゃんと動ける。


「す、すみません。ご心配おかけしまして。

なんだか頭も身体もヨレヨレで、『大丈夫です』とは正直言いづらいんですけど……。

でもちゃんと身体は動かせますし、会話もできるぐらい意識もしっかりしています。

お声かけしてくださってありがとうございます。それで、えっと……」


 にこやかに会話をするも、かたや心の中では。


(一体私に何が起きてて、そんでここはどこなの?)

(謎のまま独りぼっちより、この人たちを頼ったほうがいいような気がする)

(親切心から声をかけてくれてる感じが伝わってくるし、危険な人たちではなさそう)

(でもあまりにおかしなこの自分の現状を、しょっぱなから彼らに正直に伝えるのもなぁ……)

(まずは日本語流暢ですねって褒めるべきかな? いやハーフで日本国籍の方だったら逆に失礼にあたるか?)


 などなど、クエスチョンマークがブンブンと脳を高速で行き交っているものの、それらをぐっと押さえ込み、外面そとづらを張り付けて私がさらに喋ろうとすると……


「っっ! こんなにもしっかり理解し合って、流暢に会話が出来るとは……!」


 私の言葉を受け、オレンジの髪の男は片手で顔を覆い、俯いてもう片方のこぶしをググっと握り締めた。


 そして顔を上げて、私をじっと見つめながら、

「駆けつけるのが遅くなって申し訳ありません!

さぞや苦しかった事でしょう。お身体に何事もなくて良かった。本当にご無事で何よりです」


 盛大に謝罪の言葉を述べた。






【次回予告 第5話 非常時にプチトキメキを添えて】


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