第3話 調査
「・・・それで?」
僕が黙り込んだので、刑事が先を促した。
「いや、それだけなんです。誰がやったのかはわかりませんが、ひどいことをするな、とは思いました。でも、とっくの昔に忘れていた話なので、今思い出せるのはそれだけなんです」
刑事は呆れたような顔をしていた。僕もいたたまれなくなってきて、『それ見たことか』と言わんばかりに明石の方を見た。
「刑事さんも、もうお気づきでしょう?」明石は刑事の冷たい視線も気にせずに言ってのけた。「今回の事件との共通点がありますよね? 拘束されていて、それが死因になっているかもしれないという点です」
「12年前の出来事と共通点があるといってもなあ」刑事は面倒くさそうに言った。「動物虐待と殺人じゃ、共通点とはいえないんじゃないか?」
「白骨化した死体の死亡時期が何年も前だったらどうですか? 動物殺しがエスカレートして殺人になったケースが、過去に何件かあったでしょう?」
「なるほど」刑事は真顔になった。「まあ検死結果次第だが、頭の中には入れておこう」
「殺人事件となると、県警本部が捜査指揮を取ることになるんでしょう? 管理官とかが来たら、ちゃんと説明してくださいよ」
だから、一言も二言も余計なんだよ明石。失礼な奴だと思われてるぞ。
僕たちはこの後、パトカーで故郷の町まで送ってもらった。
とにかく初めて見る明石の意外な一面だった。あんなに饒舌な明石を見たのは初めてだったし、まさか刑事相手に推理を披露するほどのミステリーオタクだったとは。
いや、ミステリーオタクなのか? 明石がミステリーを読んでいるところなんて、見たことないぞ? それで尋ねてみると、
「ミステリーは読まない。『相棒』は観てるけど」
杉下右京のモノマネだとか言わないよね?
「それにしても白骨死体を平気で見れたり、的確な状況確認ができたり、君はもしかして警察に就職希望なのか?」
「いや、将来のことはまだ決めていない」
僕に対しては、相変わらずぶっきらぼうな奴だ。
「でも僕の見た動物のミイラが、本当に今回の事件に関係があるのかな?」
「さあね。僕は可能性を指摘しただけだから」
やけに自信ありげだったのに、その程度の推理だったんかい?
「
明石は突然ボソッと言った。
「宮司って、
明石は頷いた。
「宮司が最後に本殿跡地に行ったのがいつなのか知りたい。あの山道の様子では、年に1回も藪刈りをしてないんじゃないか? 富越神社に案内してくれ」
「いいけど、富越神社は宮司が常駐している神社じゃないぞ。普段は無人だ」
「そうなのか? とにかく1回神社を見てみたいな」
僕は移転した富越神社に明石を連れて行った。明石は興味深げに神社の中を覗き込んだり、境内を歩き回ってほかの構造物や建築物、狛犬などを観察した。
「ここは稲荷神社ではないんだな。鳥居も赤くないし」
明石はそう呟いた。確かに入口を守っている守護獣は狐ではなく狛犬だから、稲荷神社ではない。
「とすると、ミイラはキツネだったということもあり得るわけだな」
「キツネだったらどうなんだ?」
「いや、特に意味はない」
本当に明石の思考回路はどうなっているのかよくわからない。
次に彼は、僕に宮司の家まで案内させた。宮司は家の横の畑の草むしりをしているところだった。
「あれ、三上さんちの
僕がぺこりと頭を下げると、明石がつかつかと宮司に歩み寄った。
「どうも、三上の友人の明石と申します。本日、
宮司は困ったような顔をした。
「随分パトカーが来るなと思ってたら、警察が来ていろいろと聞かれたよ。死体が見つかったんだって?」
「はい。僕たちがあの山に登って見つけたんです。宮司さんはあの山に登られたことはありますか?」
「それ警察にも聞かれたんだけどね、神社が移転してからは一度もないんだよ。移転したての頃は、有志で山道の藪刈りをしてくれてたんだけどね、移転してから20年にもなるからなあ、みんな年取ったし、いつからやってないのかなあ」
「取り壊し前の旧本殿の柱に、動物のミイラが繋がれていたっていうのは知ってましたか?」
「えっ? いやそれ、初耳だなあ」
結局、宮司からの手がかりはなかったようだ。
「とりあえず、被害者の身元はすぐにわかるだろう」
明石はあっさりと言い切った。
「この小さな町で行方不明になっている人間なんて、そうそういないだろうからな。認知症高齢者グループホームとかから行方不明になった人の可能性が高いんじゃないか」
「この町の人間と限定していいのか?例えば、ほかの町から山菜採りに来た人とかもあり得るんじゃないか?」
「それはない。そういうケースは、ふもとに置いていった車で行方がだいたいわかるから発見されるし、山菜はもう少し標高が高いところの方が良く取れる」
瞬殺で論破されてしまった。明石は、これ以上まだ事件に関わるつもりなんだろうか?
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