第12話 種目決め

「……」


 冷静になれ、俺!何も焦ることはない。

 男女合同と言っても、全員がその男女合同の種目に参加するわけじゃないし、参加するとしても二人三脚とかじゃなくて集団でするリレー……とかでも俺からすれば嫌だが、それなら最悪耐えられ────


「じゃあ早速!まずは男女で行う二人三脚から決めちゃうよ〜!」


 ────男女で行う二人三脚!?最初から!?

 ……とはいえ、二人三脚はその名の通り選ばれるのは二人だけ。


「四組選ぶことになってるから、合計八人だね!」


 八人……ということは、俺が選ばれる可能性は四分の一、そうそう当たることはないはずだ。


「誰か、二人三脚やりたいって人居るー?」


「はいはーい!」


 紅葉さんが元気な声を上げながら手を挙げた。


「はーい、有紗ちゃんね〜、じゃあ次男の子〜!誰か有紗ちゃんと一緒に二人三脚したい人居るー?」


 ……紅葉さんは俺からすれば性格に難があって接し方に困ったりするが、普通の男子から見れば可愛くて元気の良い女子というイメージだと思う。

 そんな紅葉さんと二人三脚をしたい男子なんてきっといくらでもいるだろう。

 俺はどのくらいの男子生徒が手を挙げるのかと周りを見回したのだが……


「ちょっと待って!」


「……え?」


 おそらくは何人もの男子生徒が手を挙げようとしていた時に、紅葉さんがそれを制止した。


「私、一緒に二人三脚したい人が────」


「私も!二人三脚したい!」


 紅葉さんが話している途中だったが、七瀬さんが突然自分も二人三脚をしたいと手を挙げた。

 ……人の話を遮るなんて七瀬さんらしくないが、どうしたんだろうか。

 ……声音を聞く感じ、何かに焦っているような雰囲気を感じるが、何にだ?


「あ、華澄ちゃんも……?でも先に立候補した紅葉さんの話を先に聞いても良いかな?」


「……うん」


 七瀬さんは少し間を置いてそれを承諾した。


 そして、その話の流れで次に口を開いたのはもちろん紅葉さんだ。


「じゃあ続き〜!私、一緒に二人三脚したい男の子が居るの」


「そうなんだー?誰ー?」


「なぎなぎ!」


「えっと……なぎなぎっていうのは、神凪くんのこと?」


「そう!」


 俺の名前が出た瞬間、クラス中の視線が俺の方を向いた。

 ……え?……俺!?

 冗談じゃない、二人三脚って……その二人の片足をくっつけて縛って、相手の肩とかを掴んでバランス感覚を維持するあの種目のことだよな?

 ……そんなの俺がするとなれば体育祭どころじゃなくなる。


「……紅葉さん、気持ちは嬉しいけど、俺二人三脚とか今までしたことないから他に適任が────」


「なぎなぎ〜、したことないから練習するんだよ〜?私がちゃんと練習期間の間面倒見てあげるから────」


「待って!」


 今度は七瀬さんが紅葉さんのことを制止した。

 ……だが、この局面では止めてもらったことは俺にとってありがたいことかもしれない。

 ひとまずこの七瀬さんの制止によって、俺が二人三脚に出るという流れは断ち切れ────


「私も神凪くんと一緒に二人三脚出たい!」


「え……!?」


 七瀬さん……!?何を言い出すんだ!?


「……七瀬ちゃん、なぎなぎ譲ってくれない?」


「嫌、かな……」


 ……ちょっと待ってくれ。

 この流れだと、俺はどちみち二人三脚には出ることになるのか?この二人のどちらかと!?


「……」


 無理だ、無理だ。

 そんなことをした日にはまず呼吸困難になって苦しくなり、最後には……とにかく、考えたくもないなることだけは間違いない。

 ここはしっかりと意思表示をしておくべきだ。


「ごめん……俺が参加する雰囲気になってるけど、俺は二人三脚には────」


「二人とも〜!喧嘩しな〜い!」


 俺が意思表示をしようとしたところで、種目決めを仕切っているクラス委員の人が二人のことを仲裁した。


「別に喧嘩なんてしてないけど」


「そうだね」


「……はぁ、じゃあどっちが神凪くんと二人三脚をするのか、公平にじゃんけんで決めて!」


「じゃんけん……私はそれで良いけど、七瀬さんは?」


「私もそれで大丈夫!」


「じゃあ決まりね!」


 二人は近寄って、いつでもじゃんけんができるという面持ちをしている。

 ……その前に聞きたいんだが、もう俺に拒否権というものは存在しないのか?


「負けても恨まないでね七瀬さん」


「そっちこそだよ紅葉さん!」


 二人とも気合十分のようだ。

 ……が、何故か紅葉さんが七瀬さんの耳元に自分の顔を近づけて口を開いた。


「なぎなぎって、胸が大きくて身長高い女の子が好きらしいよ〜」


「え……え!?」


「あと優しい子も好きって言ってたから、七瀬ちゃんとか結構タイプなんじゃないかな〜?」


「い、いきなり何の話……?」


「別に〜?……なぎなぎって強気な感じじゃないけどそれとは裏腹に運動神経は良いから、多分ちょっとは体鍛えてて筋肉とかあったりするのかな〜」


「っ……!だ、だから!な、何の話!?」


「ううん、それだけ〜、じゃあじゃんけん始めよっか〜!」


 二人が何を話していたのかはおそらくあの二人にしか聞こえていないが、七瀬さんが少し動揺していて紅葉さんがニヤニヤしていることは遠目にもわかった。


「いくよ〜!最初はグー!じゃんけん────」


「グー!」


「パー!」


 二人は同時に手を出し、七瀬さんがグー、紅葉さんがパー……ということは。


「はい!有紗ちゃんの勝ち〜!じゃあ、神凪くんと組むのは有紗ちゃんね!」


「やった〜!なぎなぎ〜!よろしくね〜!」


 ……今からはもう断れない雰囲気だったため、俺は紅葉さんの言葉に軽く頷いておくことにした。

 ……どうしてこんなことに。

 俺が一人落ち込んでいると、また紅葉さんが七瀬さんの耳元に口を近づけて口を開いた。


「七瀬ちゃん〜、私がなぎなぎの女の子のタイプなんて知ってるわけないじゃん」


「え……!?じゃあ、さっきのは?」


「人って緊張してたりするとじゃんけんで無意識にグーを出しちゃうらしいね〜」


「まさか、そのために────」


「今回は私の勝ち〜!次があったらまたリベンジしてね〜」


「うっ……」


 紅葉さんに何かを言われた七瀬さんは、七瀬さんがいつも一緒に居る女子生徒へと抱きついていた。

 ……紅葉さんが何か変なことを言ってしまったんだろうか。

 二人三脚以降は驚くほどスムーズに種目決めが行われ……何とか一限目終了時点で全種目の参加者が決まり、早速今日の放課後から各自練習することとなり、俺は紅葉さんと二人きりで二人三脚の練習を始めることとなった。


「なぎなぎ、足貸して!」


 ……本当に、どうしてこんなことになってしまったんだ。

 俺はここ最近絶望しか感じて居ないなと思いながらも、何とか現実を受け入れることにした。

 ……今日から二週間の間、紅葉さんとの二人きりの時間が増えるのか。

 俺は気が遠くなる思いで、そんなことを考えていた。

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