第10話 逆ナン

 嘘だろ…?俺にナンパ…?正確には逆ナンってやつなのか?

 というか、どうしてよりにもよって俺なんだ!?


「ねぇねぇ、君、高校生?」


「え……は、はい」


「やっぱり〜!顔も服もかっこいいけど、ウブな感じが高校生感丸出しで可愛いんだよね〜!この後時間とかない?」


 逆ナンなんてしてくる人だから当たり前のことではあるが、俺が一番苦手なタイプの人だ……相手のことを何も考えずグイグイ来る感じの……

 だが俺は今七瀬さんと出かけている最中、ここはしっかりと断っておこう。


「あの……ちょっと、忙しいっていうか……用事が、あります」


 目を見てしまうと怖くてちゃんと話せなくなる……!

 まずい、何気に今日一番のピンチかもしれない。

 警察……を呼ぶほどのことで無いのは客観的に今の状況を見ればわかるが、他に手なんて……いや、そうじゃ無い!

 この逆ナンは、俺が女性恐怖症を克服するための壁だ!

 この人をしっかりと自分の言葉で追い返すことができたら、その時の俺はもう女性恐怖症じゃ無いと言える。

 ……つまり、この人を追い返せれば、俺の女性恐怖症克服という目標が達成される!!


「へぇ、用事?どんな?お姉さんが付いて行ってあげる」


「ひ、一人で大丈夫です」


 ……言えた!

 ハッキリと言った!

 ここまで言ってまだ逆ナンを続行することは無いはずだ。


「えー、そんなこと言わずにさー」


 まだ続行してくる!?嘘だろ!?

 こんなに拒否しても逆ナンを続けられる精神力を少しで良いからわけてほしいな……


「じゃあ、行こうよ」


 大学生らしきお姉さんは俺の手首を掴むと、どこかへ行こうとしたが……いくら大学生とはいえ男の人では無いため、物理的な力で負けることは無い。

 だから俺は七瀬さんを待つためにもこの場で踏みとどまった。


「い、行くって、どこに行くんですか?」


「……君思ったより頑固だね、あーあ、初めては怖くなさそうでかっこいい人が良かったんだけど、諦めないとねー」


 この人は何の話をしているんだ……?


「あー、ごめん、こっちの話、本題なんだけど、君には────」


「神凪くんから離れてください!」


 大学生らしきお姉さんが本題を切り出そうとしたところで、七瀬さんが飲み物を両手に帰ってくると、俺とお姉さんの間に割って入ってきた。

 情けない話ではあるが、俺としては非常にありがたい。


「わっ!いきなり誰か来────って、あれ!?七瀬ちゃんだ!」


 ……え?

 七瀬……ちゃん?


「え……色織しきおり先輩!?」


 え、七瀬さんもこの人のことを知っているのか……!?

 ということは……


「二人は知り合い……?」


「そうそう!私と七瀬ちゃんは、同じ部活!」


「うん、色織先輩とは同じ弓道部なの」


 一緒に遊びにまで出かけておいて七瀬さんの部活が弓道部だったことすら知らなかったがそれは置いておくとして……

 同じ弓道部ということは、この人……色織先輩という人は大学生ではなく高校生だったのか。

 ……高校生と言われてもファッションとかスタイルの良さとか色々な部分を加味して信じることができないが、今はそれよりも。


「だったら、その色織先輩が、どうして俺に逆ナンみたいなことをしてきたんですか……?」


「え、逆ナン!?」


 七瀬さんは驚いている。

 同じ部活の先輩が一緒に出かけにきている友達に逆ナンをしていたとなればそれは驚くだろう。


「私の好みのタイプでできれば年下のかっこいい子とか居ないかなーって思ったら君が居たの」


「どうして俺が年下だと……?」


「えー?君年下感しか無いよー?自分で気づいてないのー?」


 確かに色織先輩と同い年ではないがそもそもこの人は大人びすぎていてそのセンサーが正常に作動しているかは不明だ。

 俺が本当に色織先輩は高校生なのかと疑問に思っていると、七瀬さんが俺から遠くに色織先輩のことを連れて行き、会話を始めたようだった。

 俺には聞かれたくない内容なんだろうか。


「ちょっと色織先輩!どうして神凪くんに逆ナンなんてしてるんですか!」


「ごめんごめん、この子が七瀬ちゃんの気になってる子だって知ってたら逆ナンなんて……してたかも」


「怒りますよ!?」


 今の「怒りますよ!?」だけは声が大きくて聞き取ることができた。


「だってあの子全然女の子慣れしてないって感じして可愛いしさー、顔もかっこいいし、ちょっと動揺しすぎな感じはあったけど、それも含めて私好みだったし〜!押しに弱いっていいよね〜」


「やめてください!いきなり知らない人に逆ナンなんてされたら誰だって動揺しますよ!」


「……それだけじゃ無いみたいだけどね」


「え……?」


 色織先輩が一瞬真面目な顔になったと思ったら、七瀬さんは困惑の表情を見せている……何か大事な話でもしているのか?


「なんでもな〜い、ちょっと私もあの神凪くん?のこと気になるから、時々七瀬ちゃんの教室覗いてみよっかな〜、同じクラスなんでしょー?」


「そ、そうですけど……!」


 ……会話内容は聞こえないが、動きや表情だけで七瀬さんが色織先輩に押されている感じが伝わってくる。

 ……逆ナンまでしてくる人だ、きっと色々とスキンシップのレベルが違うんだろう。


「あ!でも七瀬ちゃん!私噂で聞いたけど、神凪くん彼女居るらしいから、寝取ろうなんて考えたらダメだよ!」


「考えてませんよ!ていうかさっき逆ナンしてた色織先輩にそんなこと言われたく無いです!それに、神凪くんは……」


「んー?神凪くんはー?」


「……なんでも無いです、とにかく!こんな変なこと、もうしないでくださいね!」


「あっ、まだあの子に用事────」


「ダメです!!」


 七瀬さんは強引に色織先輩のことをどこかへ押すと、俺の方に戻ってきた。


「ごめんね神凪くん、あの人変な人だから」


「いや……大丈夫だ」


 正直全く大丈夫ではないが、そう言っておかないと心配をかけてしまう。


「じゃあ……はい!飲み物!ちょっと飲んだら、服!また見に行こっか!」


「え?」


 その後俺は飲み物を軽く飲ませてもらうと、引き続き服を見ることとなり……最終的には体力ほとんど無くなってしまい、夕方ごろに解散したがその時にはもう、俺の記憶にある限り人生の中で一番疲れて家に帰宅した。

 ……が、命日にはならなかった!

 ……それだけで、俺にとっては大きな進歩と言えるだろう。

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