第3話 限界

「……紅葉さんはさっきの休み時間に来るって言われてたけど、どうして七瀬さんも俺のところに?」


 頼む七瀬さん、俺に用事ではなく紅葉さんに用事だと言ってくれ。

 そう言ってくれさえすれば俺は七瀬さんとも紅葉さんとも話さなくて済む。


「うん、ちょっと神凪くんに話があって」


 俺はその言葉にとりあえず軽く絶望しておくことにした。


「そう……どんな用事?」


 女子二人と同時に話すのなんて俺じゃ長くは持たない、早く本題に入ってもらって何を聞かれても即答しよう。


「うん、あの────」


「ちょっと!酷いよなぎなぎ!」


「な、何が?」


 ただでさえ緊張しているのにいきなりそんな大声を上げられると冗談抜きで俺の心臓が止まってしまうかもしれないから本当にやめてほしい。

 俺の心の内など知らない紅葉さんは大声で言葉を続けた。


「私が先になぎなぎとお話しする約束してたのにその私のこと無視して七瀬さんと話し始めちゃうなんて酷くない!?」


「……そういうことなら、紅葉さんから────」


「待ってよ紅葉さん」


 今度は七瀬さんが紅葉さんの話を遮った。


「何?」


「先に約束したとか別に気にすることじゃなくない?その場の話の流れっていうのがあるんだし」


「その流れっていうのを気にするなら今は私となぎなぎが会話するっていう流れだよね〜!」


「さっきは私と神凪くんが話すっていう流れだったよね?」


「その場の話の流れって言うんだったら、今の流れの方を大切にした方が良いと思うに私大賛成〜」


 ……紅葉さんは普段通り明るい雰囲気だが、言葉の裏には互いに戦っているような気がする、頼むから喧嘩するなら俺の前じゃないどこかでお願いしたい。


「……わかったよ、じゃあ先どうぞ」


「ありがと〜!」


 七瀬さんが折れる形で話が纏まると、紅葉さんが再び俺に話を振ってきた。


「さっきの話の続きだけどさー、本当になぎなぎに彼女なんて居るの?」


 紅葉さんが俺にそう問いかけた途端に、何故か七瀬さんの方が少し動いた。

 ……やっぱり紅葉さんが聞いてくるのはその話題か。


「あぁ、居る」


「写真も無いしメッセージログも無いしデートもまだ行ってないけど、彼女は居るんだ?」


 俺が言ったことを改めて並べられると確かに彼女要素が皆無だが俺はこの嘘を貫き通すしかない。


「もちろんだ」


 紅葉さん、怖い。

 今こそもっといつもの明るい雰囲気で話して欲しいのに……

 俺は気まずくなって来たため、そろそろ冷たく対応して紅葉さんをあしらっておくことにした。


「紅葉さん、そろそろチャイムも鳴るし、席に戻ったらどう?」


「なぎなぎ何言ってんの〜!まだまだ、あと六分もあるよ〜!」


 明るくなって欲しいとは願ったけどこういうことじゃない。


「ねぇ、そろそろ私も神凪くんと話したいんだけど」


「は〜い、そろそろ七瀬ちゃんになぎなぎ譲ってあげる〜」


 紅葉さんがそう言うと、七瀬さんは俺に近づいてきた。


「……七瀬さんの話っていうのは?」


「その……紅葉さんの話と被っちゃうんだけど、本当に神凪くんに彼女が居るのかなーって」


「え……?」


 どうして紅葉さんも七瀬さんもそこまで俺に彼女が居るかどうかの真偽を確かめたがるんだ?

 女子高生は恋バナが大好きと言うが、そういうことなんだろうか。

 ……でも、その割には二人とも楽しそうな表情では無い。


「だって、私がお昼ご飯とか誘ってもずっとその……避けられてた、のに本当に神凪くんに彼女が居るのかなって疑問に思って、もちろん彼女が居るからこそ他の女の子を避けてたって言われたら納得するしか無いんだけど」


「そう、だ、そう、彼女が居るから女子のことは避けてるんだ、だからできるだけ今後は俺のことを避けてくれると嬉しい」


「じゃあさなぎなぎ、明日彼女が居る証拠とか持ってきてよ」


 俺と七瀬さんで話していると、紅葉さんが急に話に割って入ってきた。


「え……?」


「もし本当に彼女が居るなら放課後にでも写真撮るとかメッセージするとか、なんでも良いからするなんて簡単じゃない?ね、七瀬さん」


「う、うん、それなら私も納得できるかな」


 二人はここに来て意見を同調させた。

 ……彼女が居る証拠。

 提示できるものなんて何も無いが、明日には何か思いついているかもしれない、そうすれば今度こ女子から解放され────……限界だ。


「っ……!ちょっと、ごめん!」


「あ、神凪くん!」


「なぎなぎ!?」


 俺は女子と話しすぎて体調に異変を感じたため、すぐに二人から距離を取るようにして廊下へと出────


「神凪くん?」


「し、東雲先輩!?」


 どうしてこうもタイミングが悪く出会ってしまうんだ……


「体調が優れないようね、私で良ければ保健室に連れて行くわよ?」


「だ、大丈夫です、自分で行けます」


 東雲先輩には申し訳ないがここは断ろう。


「生徒会長として、そう言うわけにも行かないわ、困っている生徒がいたら助けるのが役目だもの、ほら行くわよ」


 東雲先輩が優しいのはわかってるんですけどやめてください!!……なんて言えるわけがない。


「はぁ、はぁ……」


「あなた、よくそんな体調で学校に────」


 東雲先輩に保健室へと連れて行かれる最中、俺は膝をついてしまった。


「ちょっと、神凪くん!?……ただの風邪じゃないわね、休んだらしっかり事情を聞かせてもらうわよ」


 俺は意識を朦朧とさせながら、東雲先輩に保健室に連れて行かれた。

 そしてお昼休み、少しずつ俺が回復して来たところで、東雲先輩が言っていた通り保健室へとやって来た。


「さぁ、説明してもらおうかしら」

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