第7話 電気製品の安全性の話③の1

~~~ 安全性が確保されているかどうかわからない電気製品の話 

    第3話 (IH)調理家電製品の話 ~~~


第1話では、火事の原因として近年急増しているリチウム系電池の話をさせてもらいましたが、そこまで行かなくても、火事の原因としして前々から悪名名高いのが、IHクッキングヒーターを含む調理家電製品です。


IHクッキングヒーターと言うのは、加熱部に単純な発熱体(ヒーター)を使うのでは無く、内部に配置されたコイルに流れる電流と対応する専用の調理器具の過熱部との間で生じる電磁誘導に基づく相互作用によって加熱部を発熱させる類の電気調理器具の事を言います。

加熱原理が誘導加熱(英語: induction heating)なので、英語表記の頭文字をとってIH調理器と呼ばれる事が多い気がする。


ガスや火を使用せず、電力を直接加熱部に伝達して動作するので、エネルギー効率が良い(ロスが少ない)と期待された加熱方式なんですが…

・コンロの加熱部と鍋釜の加熱対象が、一定以下の距離範囲で近接していないとエネルギーの伝達が真面にできないので、中華鍋の様な鍋釜を揺らす事を前提にした調理器具で通常通り調理を行うと加熱性能が大きく落ちる。

・鍋釜の加熱部で発生した熱がすべて加熱対象に伝わる訳では無いので、思ったほどエネルギー効率が高くない。

・調理器具を選ぶ。(基本IH対応をうたった調理器具しか使えない。)

(・昨今の天変地異などの影響から、オール電化が案外災害に弱い事がわかってきた。)

等々の問題があり、汎用の調理電気製品(コンロ等)としては、さほど普及していないのが現状の様です。

炊飯器やグリル鍋等の様なスイッチを入れれば、調理が終了するまで人が手に振れない事が前提の電気製品で良く利用されている様です。


じゃぁ、何故火事の原因として悪名高い?のかと言うと…、

火を使わないと言っても、調理をする以上は熱を発生させる事になるし、どんな食材でも過度に熱を加えられるとやがて炭化して、それでも加熱を続ければ燃えるからです。

IH調理器具が発生源とされる火災では、そもそもの原因は、そのほとんどが使用者の不注意だと言われています。


どう言う事かと言うと、IH調理器具自体が直接の発火源では無く…、

・ある程度使っていると加熱面のトッププレート(調理器具を置く為の円が描かれている強化がガラスの部分の事)が、調理器具とのスレで少しずつ傷んでいって、擦り傷が目立つ様になっていくのですが、その擦り傷に調理中に零れたカス等が付着します。丁寧な掃除をさぼっていると、そのカス等が調理中の熱を拾って乾いていって、ついに発火に至る。

・揚げ物等を調理中に何かの理由(来客や電話対応など)でキッチンを離れている間に、油が加熱し過ぎになって高温の油ハネが起き、キッチン周りの可燃物(布きん等)が発火する。

・火を使わない事に油断して、IH調理器具の周囲にいろいろな物(可燃物)を置きっぱなしにしてしまい、調理中生じた高温の油ハネで可燃物に火が付いた。

・使用していないIH調理器具の上に、通電状態の電気製品を置いた為、電気製品と調理器具との間で電磁結合が発生して、相互作用で電気製品が誤動作を起こして、火事(発火)に至った。

等と言う、ガスコンロのあるキッチン環境ではありえない様な事故例なんかもあるそうで、思わず幾ら火を使わない加熱法とは言え、

『揚げ物をしている近くに可燃物を置くなんて、あんた、正気か?』

と聞きたくなる様な話です。


もっとも、最後の事故例だけは、それなりに深く電気(系の学問)をかじっていないと想像のつかない話なんで、しょうがないのかも知れません。

一応、中学や高校だかで、フレミングの右手だったか左手だったかの法則ってやつを習うはずですが、それがこんな事故の原因につながるだなんて、IH調理器具の加熱の原理と併せて知らない限り想像できるモノでは無いでしょうしね。


あと、これも結構聞く話なんですが、IH調理器具って言うのは、鍋釜を置くトッププレートと呼ばれる部分に強化ガラスを使っていて、それなりにスレとかにも強いんですが、それでも使っている内にスレが原因で擦り傷が付いて行きます。

すると見栄えが悪くなって行くんで、それを気にする人用に、保護シートとか、汚れ防止シートとか、プロテクトシートとかって呼ばれる、薄っぺらい保護膜的な物が売られています。


それ自体は、別に違法なものでも危険なものでも無いですし、これを貼る事によって、ガラス面が保護されるのも事実ですし、吹き零れなんかで出た汁のこびり付きなんかもある程度防げる訳ですが、IH調理器具との相性なんかによっては、これが事故(火事)の原因になる場合があるそうです。


これはどう言う事かと、そもそもIH調理器具の加熱部(トッププレート上の保護シートを張って保護する部分)の中央には、大抵過熱感知用の温度センサーが付いていて、鍋釜が異常な発熱状態になって、異常な温度になった場合、加熱を停止する仕組みが組み込まれています。


最近のガスコンロなんかにも付いていますが、コンロの火口の中央部からニュッっと突き出ている円柱状の何かと同じ目的のもので、あれは温度センサーになっていて、鍋釜の中の水分が少なくなると、加熱によって鍋釜の表面温度が上がるので、それを検知してガスを止める様になっているそうなんですが、それと同じ目的です。


IH調理器具によって加熱されている鍋釜の底の温度を検知して、その温度が規定値を超えた場合、危険な状態と判断して加熱を停止する様に出来ている訳ですが、IH調理器具の場合、ガスコンロの様に上に突き出して、鍋釜の底に直接触る様には出来ていません。

トッププレートの内側に設置されていて、プレートの表面に接触している鍋釜からプレート越しに伝わって来る温度を監視する仕組みになっているそうです。


当然、プレート表面に接触する鍋釜の底の形が凸凹だったり、しゃぶしゃぶ鍋の様にリング状の形で、センサーの位置に底が接触しない様な形だったりすると、ちゃんと温度を感知できない可能性が出てきます。


それに加えてこの話のめんどくさい所は、何処まで加熱性能と火事などへのリスク管理を突き詰めるかと言う話も含まれる事になるんですが、この種の保護シートって、大抵サードパーティ…、IH調理器具のメーカーとは全然別の、大抵は提携関係すら無い、第3者が販売している物だと言う事なんです。


当然、シート自体がIH機器メーカー製品では無いので、機器メーカー側は保護シートを張った状態で製品の安全性の確認を行っていません。(正確には、確認を行う義務は有りませんので、多分行っていないと思います、と言う意味です。)

同じ様に、保護シートメーカーも、IH調理器具に張った状態で製品の安全性の確認を行っていない可能性があります。

こちらも正確には、確認を行う法的義務が不明な部分があって、多分行っていないだろうと言う意味の私見です。


この辺に話になると、経産省所管の安全4法であるとか、消費者庁所管の消費者安全法、PL法などと言う法律があって、その辺の法の規制に抵触する可能性があるんですが、正直そこまで詳しい訳では無いので、『多分』とか、『私見です』とか書かせてもらってます。


ちなみに、消費者安全法と言うのは、第1条によってその目的を、

「消費者の消費生活における被害を防止し、その安全を確保するため、内閣総理大臣による基本方針の策定について定めるとともに、都道府県及び市町村による消費生活相談等の事務の実施及び消費生活センターの設置、消費者事故等に関する情報の集約等、消費者安全調査委員会による消費者事故等の調査等の実施、消費者被害の発生又は拡大の防止のための措置その他の措置を講ずることにより、関係法律による措置と相まって、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に寄与することを目的とする。」

と定められています。


正直、何を書いているのか、文言がややこし過ぎてて(私には)わからないんで、私見と独断に基づいて話を大胆に要約してみると、

「消費者の消費生活における被害を防止し、安全を確保するため、消費者事故等に関する情報の集約・調査を行って、消費者被害の発生・拡大を防ぎ、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現する事を目的とする。」

位に考えれば良いのかな、と思います。


要は、保護シートメーカーには、IH調理器具に張った状態で製品の安全性の確認を行う法的義務までは無いかもしれませんが、それが原因で事故が起きた(と思われる状況になった)場合、責任を取らされる可能性はありそうなので、何かしらのチェックをしている筈だ、と解釈が可能になりそうです。


ただし、これは『筈だ』であって、確実な話ではありません。


また、製品事故関係では、PL法(製造物責任法)と言うのがあります。

この法律は、何か製品に起因する(と思われる)事故があった場合で、使用者等が損害を被った際に、被害者への賠償責任をメーカーが負わせる事を定めたものです。


日本の従来の法体系では、製品に起因する(と思われる)事故があった場合で、使用者等が損害を被った場合、被害者は損害賠償をメーカー側に求めるのですが、その損害が製品に起因する事を被害者側が立証する必要があったそうです。

その為、認められるかどうかわからない事故の原因究明を自費でなさなければならず、原因究明体制や制度のサポート体制の整備不足と相まって、準備に膨大な努力をしなければならなかったそうで、それができなかった場合、メーカー側が一方的に提示する和解金(涙金)で納得せざるを得なかったそうです。


そこで、この法律によって、被害者側がその事故の責任がメーカー側にある事を立証する必要がなくなり、メーカー側に過失が無い事を立証する義務をメーカー側が負う、となるはずだったそうなのですが、この法律には本来あるべきな、メーカー側の無過失実証義務(私が今作った造語ですので、この場以外では使わないでください。)が努力義務程度にしか設定されておらず、あまり役に立たない残念法になってしまっているので、どの程度役に立つかわかりません。


因みに、メーカー側の無過失実証義務と言うのは、メーカーが販売した製品が原因で何らかの事故が発生したとされた場合、メーカーは、自分の側の設計に過失が無い事を証明する義務を負う、と言う物で、本来PL法に組み込まれているべき条文なのだそうです。(そうでないと、事故が起きた時、被害者がメーカーの責任を立証する必要が生じる。)


所が、この法律の元ネタである米国では導入されているこの部分が日本で法制化される時に努力義務程度に緩和されてしまったそうで、それを聞いた当時の(消費者運動などをしている)関係者は、これで安心できると期待していたのに《過大な忖度によって作成された骨抜き法にされてしまった》と、大いに嘆いたものだと、業界筋の方に聞いた記憶があります。


話が逸れてしまいましたが、IH調理器具のメーカーは、所謂日系メーカーだけでも10社以上有って、海外系メーカーの製品を含めると20社を超える様です。

保護シートメーカーがどの程度の種類のIH器具や鍋釜製品を用意して、自社製品が使用されている状況での安全性を確認しているかわかりませんが、未だに事故報告が絶えることが無い事から考えると、さほど行っていないか行っていても条件付けが甘く十分な検証を行っていない可能性がありそうです。


ちなみに、IH機器メーカーはこの種のシートの使用を推奨していない、というか、公認しておらず、基本禁止していると聞いた事があります。

少し気になったので、ネットでチェックしてみたのですが、大体のIH調理器具の取扱説明書には、警告のページ中に、

『鍋の下に紙・~よごれ防止シートなどを敷かない。』(Y社)

『「トッププレート(ガラス製)には、鍋以外のものは載せない。」の具体例の中で「市販の汚れ防止カバー~」』(P社)

などの表現を使って注意喚起と言うか警告をしている様です。


メーカーとして、はっきりと《警告》の形で注意を促していると言う事に、事の重大性が伺えます。

まぁ、この種のカバーメーカーの製品を1個づつチェックする等、とても手が回らないので、いざと言う時の予防措置…、虫除けスプレー的な感じな記載なのかもしれませんが…


何せ、某色々やってるポータルサイトのネット通販のページで、「汚れ防止カバー」のワードで検索した結果、400件以上ヒットしてました。結構、こちらが意図した製品で無い物も含まれていましたし、重複も考えられますので、1/4と考えても100件以上のの商品があると言う事です。


それだけの商品を購入して、何種類あるのか知りませんが自社製品との組み合わせで、火災などの危険が発生する可能性があるか否かを、色々なシチュエーションを考えて確認する等…、とても調べられたもんじゃありません。


実際に調べてみれば、もしかすると、それほどの危険性は無いのかもしれませんが、実際にそれが原因で(あると想定される)火事が起きている以上、使い方を誤ると火事を起こす可能性が否定出来ない訳です。


あなたなら、IH調理器具をかわいくデコる事を優先するか、何かのはずみで小火(火事)を引き起こす可能性を高めずに済ますか…

何とも訳の分からない2択ですが、実際に、それが原因で火事が起きてるそうですから、一度ご自宅のIH調理器具の状態をお確かめください。



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本当に大丈夫? 桜月旬也 @nyar35to49

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