第4話:アクシデント。

翔太郎についている守護天使「アリエラ」

朝はアリエラが起こしてくれるようになったので目覚ましはいらなくなった。


かと言って、アリエラがなにかをしてくれる訳でもなく、朝ごはんの時も、

大学へ行く時も翔太郎のそばを離れなかった。


授業中はどこへ行ってるのか、姿は見せなかったが 下校する時には、

どこからともなく現れて、翔太郎のそばにいた。


アリエラが翔太郎以外の人には見えなかっただけで・・・。


そうやって守護天使アリエラは翔太郎を守っていた。

時には翔太郎のいい話相手にもなってくれた。

天使のくせに・・・くせにというのは語弊があるが・・・天使のくせに

冗談も言って、翔太郎を笑わせたりした。


アリエラといる時間は翔太郎にとって特別な世界だった。

だから翔太郎がアリエラに夢中になるのに、それほど時間はかからなかった。

もっとも最初にアリエラを見た時から、翔太郎の恋は始まっていたのかもしれないが

その想いが自分でも分かるくらい強いものになっていた。


特に付き合ってる女の子もいなかった翔太郎はいつしかアリエラしか考えられなくなっていた。

アリエラに自分の想いを告白したことはないが、お願いするとアリエラに

触れることだってできた。

天使と言えど女の子、手をつないだだけでドキドキした。


神の使いって言うくらいだから、もっと厳正な関係かと翔太郎は思ったが、

以外とゆるいんだなって少しホッとした。


アリエラがそばにいると、そのなんとも言えない、ほんわかとした柔らかさ、

優しさに翔太郎は癒された。

そして匂い・・・なんの匂いなのか翔太郎には分からなかったが、 とっても

甘〜い匂いがした。


アリエラの匂いを嗅ぐと翔太郎の胸がキュンとなりっぱなしだった。

アリエラの匂いは翔太郎の心を落ち着かせるのに絶大な効果があったようだ。


翔太郎にとっては、自分の守護天使が見えない方がよかったのかもしれない。

見えなかったら、アリエラに心を奪われることもなかっただろうから・・・。


誰もが自分の守護天使が見えたとしたら、その魅力に負けただろう。

守護天使っていうのは、保護者を常に自分に引きつけておくために、一種独特の

フェロモンを出しているのだ。


だからと言って守護天使と人間は守る側と守られる側としての関係でしかない。

アリエラはあくまで守護天使なのだ。

人間とは違う・・・翔太郎が密かな想いをアリエラに抱いたとしても

それはただ虚しいだけで終わる話だった。


それなのに翔太郎は、もう自分の恋人のようにアリエラのことを想っていた。

だいいち後にも先にも天使と人間が結ばれたなんて話は聞いたことがない。

だから守護天使など見えないほうが幸せだったかもしれないのだ。


もっとも日本の伝承「羽衣伝説」では人間と天女が結ばれて、子供までもうけたと

いう言い伝えは存在する。


普通なら翔太郎はアリエラに守られて平和な生活を送るはずだった。


ある事件に遭遇するまでは、翔太郎とアリエラは仲良くやっていた。


ある日のこと、翔太郎は大学の帰り道、横断歩道を渡る小学生を事故から

救うことになる。


もちろん翔太郎のそばにアリエラもいた。

翔太郎が下校途中、バス停でバスを待っていた時、すぐそばの横断歩道を

小学生が手をあげて渡っていた。

横断舗装側の信号はたしかに青だった。


そこへ赤信号を無視して大型車が暴走してきたのだ。

あわや小学生がはねられると思った瞬間、考える間も無く翔太郎は飛び出していた。 瞬時の判断だった。


間に合わないと思った翔太郎は小学生を突き飛ばした。

そのおかげで小学生は、少しの打撲と擦り傷だけで済んだ。

だが翔太郎は暴走してきた車にはね飛ばされた。


あまりに一瞬の出来事だったため、アリエラは動けなかった。

いくら守護天使と言えど、突発的なことには対処が遅れる時もある。


なぜか、その時アリエラには翔太郎の未来が見えなかった。

あとでわかったことだが暴走者は酒気帯び運転だったそうだ。

酒を飲んで車を運転してた上に前方不注意。


主人公が交通事故に見舞われるなんて、韓国ドラマの定番のような出来事だった。


暗闇の中で翔太郎は、誰かに呼ばれてる声を聞いて目を覚ました。

目の前には綺麗な空が見えた。

翔太郎は自分がどこかに横たわってるって思った。

でも、なんとなくここは、何か違うってそんな気がした。


「翔太郎、起きて」


呼ばれたほうを見ると、心配そうな顔をしたアリエラがいた。


「え、もう朝?」


「いいえ、違います」

「覚えていませんか、事故のこと・・・」


「覚えてるよ・・・そうだ僕はどうなったの?」

「小学生は?」


「小学生は、翔太郎のおかげで無事でした」


「翔太郎、ごめんなさい・・・私、あなたを守れなかった」


アリエラの瞳から涙がこぼれた・・・守護天使も時にはミスを犯すらしい。


「僕はもしかして、さっきの事故で死んだのか・・・」

「ここはどこ?、アリエラ」


「ここは冥界の入り口です」


そう、翔太郎は、あの小学生を助けた時、車にはねられて瀕死の重傷を負ったのだ。 正確に言うと、まだ死んだわけじゃなく肉体から魂だけが離脱している 状態に

あった。


つづく。

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