第68話:観光していくショタロリ達

 東京から淡路島に来てから二日が経った。

 ここ二日間にあったことといえば、主に修行ばっかりなのと……まったく神綺が話しかけてこない事。

 いつもなら話しかけてくる彼女は、全くと言っていいほどに自分から関わってこず――話しかければ返事はくるが、その反応もぎこちなかった。


「心配なんだよなぁ……」


 今日の修行分を終え瞑想を続けた後でそう呟くが、今の言葉は彼女には届いてないだろう。それほどまでに今の彼女は俺に気を回す余裕がないだろうし、話を聞きたいが多分誤魔化されるので何も出来ないでいた。


「なぁ孤蝶、神綺に話を聞けないか?」

「……無理、だと思う。私でも分かるくらいに神綺は今変だし……逆に聞くけど、なにかした?」

「心当たりはない……まぁでも、やっぱり心配だな」


 自分の式神となっている孤蝶を呼び出し聞いてみればそんな言葉が返ってくる。

 彼女は普段俺の中にある神綺の社で過ごしていて、俺より普段の神綺に様子に詳しいから聞いてみたのだが、やっぱり神綺の様子は変らしい。

 悩んでも仕方ないだろうが、やはり自分の相棒が不調だと心配してしまうもので父さんに注意されるほどには意識をそっちに割いてしまっているらしい。

 そのせいか気を遣われるし、なんならそれのせいで今日は修行が休みで観光の日になったし。


「とりあえず、今日は楽しもう。せっかく皆が観光するっていうのなら暗くなっても意味ないしな」

「私は澄玲と華蓮と一緒に食べ歩きしたい」

「別にいいぞ? ……でも気を付けろよ、迷子とか」

「ふっ私は華蓮のお姉ちゃんだから迷わないよ」

「……なんだかんだ仲良いよなお前等」

「そりゃね、実質姉妹だから」


 似てないけどな……とは言えないので、言葉を飲み込み俺は支度をして自分の部屋を出て行った。もう皆は準備を終えているだろうし時間的に多分俺が最後だろう。

 廊下を歩いて外に向かっている途中、俺は羊っぽい生物の上に乗る少年の姿を見かけた。


「あ、今日は外出るのか結香ゆか?」

「そうだねー……皆と観光したいからー」


 彼の名前は葉月結香はづきゆか

 この合宿に来るまで関わってこなかった、未を祀る暦の一族の子でありいつも眠そうにしていて、干支神である未地みち乗ってる俗に言う茶色い髪した男の娘。

 彼の能力としてはあらゆる大地の状態変化と操作という強力すぎるもので、未地の権能の合わさって作中でもかなりの強さを持つ人物として描かれていたことを覚えている。そんな彼は地面に接してさえいれば術が使え、ほぼ無尽蔵に攻撃出来るのが特徴だ。


「刃君は大丈夫なのー? 普段の君は知らないけど調子悪そうだったから」

「一応大丈夫だな、それより皆待ってるだろうし速く行こうぜ?」

「そうだねーいけ未地神ーはっしーん」


 そして何より、彼と未地の関係は【けもの唄】の世界の中でもかなり良好で、とても微笑ましいのだ。彼視点の物語を読者として知っていた俺は、それが素晴らしいものだと思うし、それまでの苦労を知ってるからこそ少し羨ましい。

 そんな彼等を見て観光が終わった後で神綺とちゃんと話そうと俺は決めた。


「待ってたぞ刃! 観光行こうぜ観光!」


 宿泊先の建物を出て神社の鳥居付近まで結香と行けば、そこには睦月先輩と弥生先輩以外が集まっていた。

 女子陣としては龍華に華蓮、澄玲に巴と雪音と剣。そして俺等に気付いて手を振ってくれる亮と父さん。そんな彼等と合流し、俺等は父さんが運転する無駄にでかいレンタカーで淡路島を観光することになった。

 今日一日観光に使う予定で午前は俺は男子陣と周って、午後からは女子陣に俺のみが放り込まれる予定になっている……今更のその状況を気にすると言うことはないが、なんというか波乱がありそうで怖い。主に龍華と澄玲辺りでだけど……。 

 

「引率は現地の狩り人に午前は任せて、俺は龍華ちゃん達を守る感じだな。でだ刃、この島にはケモノは生まれないが、問題は起こすなよ?」

「父さん? まるでいつも俺が問題起こしてるみたいな発言止めてくれないか?」

「いや、だって……ちょっと振り返ってみろ自分の行動」

「……この話止めようぜ?」


 助手席に座りながらそんな話をし、目的地に着いたので俺等は一度別れて今回引率してくれる狩り人の人に挨拶することになった……んだけど。


「大丈夫ですか?」

「いや、あ……はぃ――大丈夫ですので気にしないでくださいぃ」


 そこに居たのは女性の狩り人、なんか既に体調が悪そうでそれどこか顔色の悪い彼女は凄い怯えた様子で俺等を見ていた。


「い、一応自己紹介しなきゃ……ですよね。幽風蜜柑ゆうかぜみかんです、なんで私みたいな糞雑魚が暦の護衛をやることになったか分かりませんが、精一杯守るのでご安心くださいぃ」

「緊張しなくて良いよー……畏まられるの苦手だしー」

「……本当に大丈夫ですか? 今からでも変わっても」

「あ、いえ。これで変わるとかなったら上司に首飛ばされるんでそこは安心してください――責任重大すぎて限界ですが、一応地元なので案内は出来るはずなのでついてきてください」


 まじで大丈夫だろうかこの人、目が死んでるし何より本人が言ったとおりに限界そうだし……でも霊力の量に関してはかなり多いのが感知で分かるし、実力者である事は確かだろう。


「最初は沼島に向かいます、船旅で揺れますが……この島周辺の海ケモノはいないので楽しんでくれると幸いですぅ」


 そんな事になり、俺達は彼女の引率の沼島に行く事になった。

 こういう場所で観光は初めてだし、自然が多い場所は好きだから今から楽しみなのだが――どうしてか、変な胸騒ぎがするのだ。

 俺の中にある四季が脈打っているというか、体の中が熱くなる。

 いや――正確に言うと俺に混じった神綺の血を強く感じてしまうのだ。

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