第69話:沼島での戦闘
船に揺られて約十分、俺達は無事に沼島に着いた。
沼島というのは簡単にいうと、この国の原初神が結ばれた場所で様はこの国の始まりの場所である。そういう逸話があるからか、この島は異常な霊力が満ちる淡路島以上の神域であり、来て知ったが――有り得ないほどに過ごしやすい。
呼吸一つで霊力が回復し、多分ここで修行するだけでもかなり力が上がるだろう……という事が分かる。
でも……やはりおかしいのはさっきから体が熱い事。
混じった神の血が何かを恐れている――自分の体だからこそ分かるが、嫌な予感しかしない。それどころか、何かに呼ばれているような気さえする。
「凄いねー未地が喜んでるー」
「初めて来たけどそうだね、刃君はどう?」
「そう――だな。あの幽風さん、この島の中心には何を祀ってるんです?」
「えぇっと……伊弉諾様ですね、その分社が島の中心にはあった筈かとぉ」
それを聞いてもやはり感じる違和感。
原初の神の加護ある島ならきっと、こんな身が凍るような気配を感じる訳がないだろうし、なんならこの気配には何故か覚えがある。
それこそ、いつかの夢で――あの廃墟の夢で。
それはないと、断じたかった。だけど、あの時夢に見て記憶にこびり付いた悪意と殺意と神威が――それを否定させてくれない。
その考えに思い至った途端に俺は集中し、この島に何がいるかを探った。
――何かがいるとするなら中心部、探り続けこの平和なはずのこの島にいるはずのない異物を……。
『ッ駄目よ刃!』
その瞬間、今まで静観していた神綺も俺の感知を通してそれに気付いたのか俺を止めた。でも――それはもう遅くて。
「ハッ! 偶然だがまさか獲物から探ってくるなんてな!」
――声が、聞こえた。
聞いてはいけない声が、自信に満ちあふれた男の声が。
迅雷を焔を操る神の声を聞いた。
「――二人とも防御!」
焦ってそんな言葉だけを伝える。
俺も俺で過去最高レベルの練度で術を展開し、周囲に氷の壁を作り出す。俺の焦った声を聞いたからか、亮はすぐに察してくれて結香も結香で俺の壁を補強するように大地を操りより強固な壁を作りだした。
――刹那、光が見えた。
そして轟音が耳に届き、作った壁は全て壊される。
「へぇ……思ったより餓鬼だな。でもいい、下手な奴らよりもつえぇのは確かか」
壁を壊して現れたのは、金髪灼眼をした人から外れた者。
いや、元々人ですらない神の一柱。絶対に相手にしてはいけない、俺の因縁。
「お前だよな黒髪の餓鬼、お前が巫女の契約者か?」
……声をかけられる。
それは明らかに俺に向けて問われたもので、嘘は許さないという圧を感じる。でも、答えられない。こいつの発する神威が俺の身を竦ませ、何より本能が喋ってはいけないと伝えてくるから。
「なんで貴方がここに居るのかしら、炎雷?」
そんな俺等を守るように、彼女は現れた。
今までの態度が嘘のようにいつもの調子で彼女らしい在り方で、格上だろう神に正面から立ち向かう。
「久しぶりだな神綺? ――お前が誰かと契約するなんて思ってなかったぞ?」
「そんなの私の勝手でしょう? それより、ここは退いてくれないかしら?」
「無理な相談だ、馬鹿姉がそれを欲しがってるからな――にしてもそんな極上の依木どこで見つけたんだ? 聞いていたが、お前以上に神を降ろすのに適した天然物の器とか数千年の歴史でも見たこと無い。それにこの霊力……あぁ、そういうことか」
「――交渉決裂ね、刃……私が時間を稼ぐから皆を連れて全力で逃げなさい。私は貴方がいれば、消えないから」
神綺はそう言って微笑んだ。
自分を見捨てて逃げろと言って――だけど、そんな事許してはいけない。
俺が目指すはハッピーエンド、その中には神綺も含まれてないと行けなくて――何より、俺が彼女と未来を歩むと決めたのだから。
「折々と、巡らせろ――四季」
逃げないといけないのは分かる。
――勝てないのも分かる。でも、それは神綺を見捨てていい理由にはならない。
狙いは俺だ。それならここで倒すしか道はない、それにこいつは今百鬼夜行を連れてない。連戦じゃ無ければ、きっと。
「やっぱ使えるのか……じゃ、やろうぜ?」
「刃止めなさい! すぐ四季をしまって!」
瞬間――迅雷が俺へと迫った。
四季を全力で使い、冷気を解放。
周りを気にしている余裕などないのでここら一帯を極寒地帯へ変貌させ、異旬の判断で亮達の場所だけを保護。
凍装を展開、防御力を上げて――白雪を製作片手に装備。
一秒経過……迎え撃つように腕を斬ったはずなのに、それはすぐに再生してそのまま凍装の上から腹を殴られ俺が血を吐いた。
二秒目……喰らうは連撃。何回殴られたか分からないが、凍装がなければ死んでいただろう。
三秒……経過、反撃として四季を振り首を刎ねたはずなのに体だけで動いて俺は蹴り飛ばされる。
「ッ――ガッ!?」
たった三秒の攻防、それだけで察する力の差。
でも駄目だ――抗わないと、皆死ぬ。だから反撃しろ――動け、動かせ、頼むから!
その瞬間、声が聞こえる。
何かの声だ。捧げろ捧げろと、刀から。
「――持ってけ!」
何を捧げればいいか分からない、でもその判断は速かった。
そう判断した時、魂そのものが削られる。変質し、変貌し……より死者へと近くなっていく。だけど、それでいい。
こいつに抗う術があるのなら、もうなんでも!
「銀嶺氷界――紅蓮!」
氷界展開し、それの収縮。
四季に全てを集約し、自分の霊力をこの一振りにのみ集約させる。
迫る炎雷――それに迎え撃つうように放てば、極氷の一撃が大気すらも凍らせ島の一部を両断し、相手を海の底に叩きつけた――筈だった。
「来い、雷槍――
そんな言葉が耳に届いた瞬間に、全てが終わった。
反撃を許さぬままに、衝撃が襲いかかってきて――体に焼けるような痛みを感じ気付けば俺は地面に倒れていた。
「はっ化物だなお前、もっと研鑽を積めば普通に他の雷神には勝ってたぞ? でもそれだけだ」
「ッガ――まけ、てない」
「それにまだ戦う意志があると来た。そうだな、これで終わりはつまらねぇよな! じゃああれだ。さっき島の中心で見つけた奴なんだがよ、それを神綺に返そうか」
俺を見下す炎雷の手には、一本の刀が握られていた。
それは四季にそっくりな紅い刀であり、目にした瞬間に俺の中の四季が共鳴を始めていた。そして抵抗できない俺にむけて炎雷の奴は、それをゆっくりと刺してきて。
「じゃ、精々頑張れ――耐えたらまたやろうぜ?」
その刀は俺の中に吸収され、有り得ない程の呪いが俺を侵し始めた。
熱い、苦しい――訳が分からないほどに俺の中に何かが混ざる……そして、苦しみの中、狂いそうな熱に焼かれながら俺の意識は落ちていった。
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