第64話:夏合宿は唐突に
ヒトモドキ……というよりケモノビトモドキと遭遇して数日、学園に戻ったのは良いのだが最近周りが慌ただしかった。
理由としては単純で、あれの出現以降ケモノの被害が増えてるらしく学園の教師達や全国の狩り人達が連日勤務状態になっているから。
本来ならば小学生である俺には関係ないのだけど……神綺が何かを警戒していることもあって俺は気を抜くことが出来なかった。
『ねぇ刃、貴方は廃墟で夢を見たのよね?』
「そうだが……あんまり思い出したくないんだよな」
『あの時は教えてくれなかったけど何を見たの?』
「言わなきゃ駄目か?」
『出来ればお願い……本来なら私が貴方を助けないといけないのに、干渉できなかったのが不安で。まるで貴方と魂を私の領域から切り離されたみたいで』
珍しく弱音? というか、そんな事を俺に吐露する女神様。
彼女もそういう事を思うのかと思いつつ、俺は思い出したくないあの夢の事を彼女に話す事にした。倒壊する建物に倒れる父さん、そして――それをやったであろう八雷神の一柱の事を。
「まぁこんな感じだな……ってどうした神綺?」
『――なんでもないわ。確か本来の貴方とは因縁があるのよねその
「そう……だな。原作の、この場合本来辿るはずだった道の刃は、その神が率いる百獣夜行で全てを失った。それ以降も炎雷には度々狙われたって記憶はしてる――まぁ最近は思い返してなかったから曖昧だけどさ」
それだけを話して……俺は自分で伝えた言葉に首を傾げた。
そういえば最近になってだが、原作の記憶が曖昧になってるのだ。完全に……とはいかないものの大好きだった【けもの唄】それのことは大抵覚えていたはずなのに、最近はちゃんと思い返そうとしないと思い出せない。一応メモはしているが、自分で思い出すのが難しくなってきた。
まあこれを神綺に話しても無駄に心配されるだけだろうから話さないが……。
『――そうなのね。ねぇ刃、貴方は私と契約した事に後悔はないかしら?』
「ん? ないぞ、俺はもう覚悟決めたしな」
『そうね――貴方ならそう言うわね』
そこで会話は強制的に終了。
何故なら部屋に誰かがやってきたからだ。
こんこんとノックが数回、インターホンを使えば良いのにと思うも、そうやってこの部屋にやってくる奴は限られているので、俺は神綺に戻って貰って扉を開ける。
「刃! オレが来たぞ!」
「あーおはよう雪音、今日は何の用だ?」
やってきたのは舎弟(仮)である霜月雪音、今日も元気いっぱいな彼女は俺を見るなりそんな声で挨拶してきて、今日の用事を伝えてきた。
「九曜様に刃を呼んでくれって頼まれたんだ! 他の暦の奴らもいるぞ!」
「え、なんだそれ。なんかあったのか?」
「詳しくは聞いてないぞ? ……あ、でも申と午、あと寅はいなかったな!」
「……まじで何が起こるんだよ。暦の子達集めるって相当だろ」
「知らん!」
「そっか……呼んでくれてありがとな、準備できたら向かうから待っててくれ雪音」
どうせ先に戻れと言っても居着くだろうし、それなら待って貰っていた方がいい。
それにしても、暦の大半を集めて何をするんだろうか? ……【けもの唄】では結構過去に起こっていたイベントについても語られていたが、暦の子達が集まったなんてものは公式の奴ではなかった気もするし。
「よし、行くか雪音」
「おう、案内任せろ!」
準備と言っても着替えるくらいだったので私服に着替え、俺は雪音の後についていき集まっている場所に向かうことにした。
辿り着いたのは学園の会議室、そこにはさっき言われたとおり申と午に寅以外の殆ど同世代の子供が集まっていた。
中心にを囲むように机と椅子が並んでいて皆が座っている。
「まじで殆ど集まってるんだな」
「こっちです兄様」
最早安心できるようなその光景に少し笑ってしまったが、待たせてるのも悪いしで俺は空いている剣の横の席に座った。
そしてそれから少し経ち、この空間の中心に九曜様が現れる。
「よく来てくれたわね皆、今日は集まってくれて感謝するわ」
白い髪に白い服、何処までも真っ白で雰囲気すら希薄な彼女は俺達を見渡した後で、ゆっくりと口を開く。
「今日集まって貰ったのわね、皆で旅行に行こうと思ったからなの。ほら最近ケモノの動きが活発でしょう? だから強化合宿みたいな感じで、暦の何人かで合宿に行って貰うことにしたのよ」
それだけ言って彼女は俺達の元にいくつかの資料を渡してきた。
目を通せばそこに書いてあるのは詳しい内容やスケジュールそして肝心の場所だったのだが……そこは。
「……淡路島?」
原作の最終決戦の場所である淡路島だった。
不意にそう呟いてしまった事で九曜様がこっちに意識を向けてくる。
「えぇそうね刃、今回の旅行先は淡路島。あそこは日本の中でも特に満ちている場所だから修行場所にはもってこいでしょう?」
「付き添いは……なんで父さんなんですか?」
それにもう一つ気になるのは書いてある資料の付き添い人と書かれていたのは十六夜昴……つまりは父さんだった。
「あそこは霊力が溢れてる反面で強いケモノが多いもの、子供達では危ないかもしれないでしょう? それに暦の大人達には別の仕事を今与えてるから、空いてるのが昴しか無いのよね」
そうやって理由を説明され、それから諸々の注意事項を伝えられて今日は解散。
どうしてこの時期に淡路島に行くか分からないが、どうしてか嫌な予感がして……何より九曜が出れば喋りそうな神綺が一切喋らないことに違和感を覚えながらも俺は部屋に戻ることにした。
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