第61話:学園に戻って
「……やっと、帰って来れた」
樹海にある家に帰って婆さんと死ぬほど戦って、俺達は無事? とは言わないが、なんとか学園の寮に帰ってきた。
皆とは寮の前で別れて重い荷物を持ち部屋に入る。
――久しぶり……と言うには短いが、ちょっとぶりの自室。
とりあえずだ。ゆっくりしたいので俺は荷物を置いてベッドに飛び乗った。
「わふっ――なんだ!?」
そして次の瞬間に、聞いた事のない少女の声を聞いた。
混乱する思考回路、訳が分からなかったのですぐに離れて布団を剥げば――そこにはなんか灰色の髪をした犬耳と尻尾の生えた少女がいた。
「……えっと、どなた?」
当然だが、そんな知り合いは俺にはいない。
……記憶を探ってみて彼女に既視感は覚えたが、流石に気のせいだと割り切り彼女の返答を待った。
「あれむぅ、朝? …………あ? なぁ、なんでオレはここにいるんだ?」
「いや知らねぇよ」
思わずツッコんだ。
この少女が分からなければ誰も分からないからだ。
「そうなのか……それよりお前誰だ?」
「俺はこの部屋に住んでる十六夜刃。で、お前は誰だ?」
「オレか? オレは
その名前は知っていた。
というかいつかは出会うとは思っていた。
彼女は年齢的に一つ下の少女であり、原作キャラの一人――そして、その原作キャラの中でもかなりの破天荒枠であり、めっちゃ元気なキャラ。
「――というか、刃? 十六夜のか?」
「そうだけど……なんでお前はこの部屋にいるんだ?」
「……あーえっと、そうアレだアレ。そうあれだ」
「本当に用あるのかよ……」
「待ってくれ、思い出すから――そうだ! オレお前の舎弟になりに来たんだ!」
そして……完全に用事を思い出したかのような彼女はそう言ったんだが――その答えを聞いたところで浮かぶのは疑問符だけ。
「……なして?」
「親父に言われたから?」
あまりにも意味が分からなくて、口に出せば彼女も彼女でよく分かっていないのかそんな言葉を返してきた。
「一応聞きたいんだけどさ、どういう会話したんだ? その親父さんと」
「うーんっと。親父に呼ばれて……頼まれた? あ、あと肉食ったぞその時!」
「…………よかったな」
まじで何も分からないけど、とりあえずお肉食べれたなら良かったね。
……いや違う、そうじゃない。
この子は一度決めたらてこでも動かない性格の子だ。俺は舎弟なんかいらないし、その役目は元は剣のものだ。
原作を壊す――と言う考えは薄れているけれど、オタクとして剣の元で申を祀る一族の長月敏さんと言い争ってる姿を見たいのだ。
戌申コンビは好きだし、そのやり取りが凄く見たい。
「それにだ……お前自身はいいのか?」
「ん、何がだ?」
「舎弟になることだよ、頼まれただけなら別にならなくていいだろ?」
「最初はそう思ってたぞ? だけど、お前強いだろ? ずっと見ててそれなら良いかなって。それになんかお前を見てると暖かいんだよ、布団に入ってて思ったけど落ち着くし悪い奴じゃないだろ? だから決めたんだオレはお前の舎弟になるってな。だからよろしくだ刃! 舎弟になったからには出来るだけ傍にいるからな!」
あ、これ駄目なやつだ。
そこまで彼女が断言するって事はもう意志は変えられない。
あと断っても付いてくるだろうし、これ後で大変な事になりそうだなぁと心底思った7月の下旬の出来事。
そしてその予感はすぐに的中し彼女が舎弟になってから二日後の事だった。
「よし課外授業なんだが――十六夜、その子は?」
監視役兼引率としてやってきた宵闇夜空先生は、俺の後ろに控える雪音を見て聞いてきた。それに対して言葉を迷っていると、先んじて彼女が答える。
「舎弟だ!」
「……お前、将来刺されるぞ」
「知らないです夜空先生……」
そして夏休みに取っていた課外授業でのこと、夜空先生の引率でケモノが目撃されてる心霊スポットにやってきたんだが、彼女は案の定付いてきた。
尻尾をぶんぶんと振りながら俺の横に待機する彼女、それを見た先生はなんかいらない心配をしてきて――それを聞いた俺はこの二日間を思い出して胃を痛めた。
俺は彼女、霜月雪音の事を侮っていた。
正確に言えば彼女の舎弟観をだが――彼女は言った舎弟になったからには傍にいると。それで何をされたかと言えば、この二日間俺は彼女とずっと俺の傍にいる。
流石に風呂の時は抵抗しているが、それ以外の寝食までを共にしており、何があろうと離れる気配がない。一度部屋に帰ったらどうだ? みたいなことを聞いたが、その瞬間に泣かれかけ、帰すことも出来ずに――。
あぁ凄いな原作の剣は。
あまり描写されなかったが、雪音が仲間になってから時々部屋にいる画があったけど、経験した俺なら分かる。
……あの期間、剣は彼女とずっと一緒だったって。
「ん? どうしたんだ刃? なにかあったか?」
「いや、なんでもない――それより今回の結構危険だぞ、大丈夫か?」
「心配してるのか?」
「そりゃ当然だろ、俺の知ってるところで怪我されても目覚め悪い」
「そっか、心配するんだなお前は――でも大丈夫だ! オレは強いからな!」
最初の部分は聞こえなかったが、それでも心配だ。
今回は特例として普通の狩り人の依頼を持ってきて貰っている課外授業、夜空先生の監修があって初めて成り立つもので、危険度自体はかなり高い。
それに現時点での彼女の強さは知らないし、俺は前の龍華との共闘で思い知ったが守るのが苦手だ。だから本当なら夜空先生に守ってて貰いたいのだが……多分彼女の性格的にじっとはしてられないだろう。
「じゃあそうだな約束しろ、俺から離れるな」
「――オレが索敵した方が良くないか鼻は効くぞ?」
「駄目だ。索敵なら俺も出来るから離れないでくれ」
「……分かった言うこと聞く」
「よし、ならちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ?」
そう言い俺は改めて夜空先生に今回の任務の詳細を聞くことにした。
今回のケモノの位は推定中位の奴らしい、犠牲者は今の所おらず何でも正体は目撃情報的に蜘蛛型のケモノであろうと言うこと。
蟲型のケモノって厄介な能力を持つのが多いんだよなとか思いながらも、俺は夜空先生について行き、廃墟であろう心霊スポットに足を踏み入れた――この先に待つ地獄を一切知らぬまま、踏み入れてしまったのだ。
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