第60話:VS星詠み

 戦闘が始まって数秒、感じるのは異様な熱気。

 婆さんが持つ刀に紅い線が走りそれが振るわれるだけで――地面から炎が溢れ出した。


「折々と謳え――夏の陣、灼衣しゃくい

 

 そして次の瞬間には炎を纏った婆さんが迫ってきて、刀を振るってきた。

 狙いは俺。冷気を放っているおかげで感知し避けることが出来たけど、数秒でも遅れれば死んでいた。


「いい反応ですね刃――だけど他の子はどうでしょう?」


 褒めるようなその言葉、だけど安堵する暇などない。

 だって彼女は超スパルタで、容赦が一切ない女性だから。

 この空間ぐらいなら全力で冷気を放出すれば覆えるが、婆さんは炎を纏ってるのでその周辺は無理だ。

 さっきのも熔けた一瞬をついて感知しただけだし、相性が純粋に悪い。

 それに、あの婆さんが持つ刀が四季と同等のものなら――あと三つ属性が残ってる筈で……。


『そこは安心しなさい、あれは四季の劣化版よ。出力が違うから世界を改変する力は無いわ――ただ』

「神綺様、助言は無しですよ」

「はぁい、じゃあ頑張りなさい刃」


 念話の筈なのに婆さんは神綺が話したのを理解したようで言葉を遮ってきた。

 まじでバグなのではこの人? とツッコみかけたが、なんとか抑えて俺は状況を確認することにした。


「えっと状況が……」


 見る限る龍華は植物を使うのを諦めて岩剣で攻めており、雫はいつも通り消えて隙を窺っている筈。亮はうり坊を召喚し果敢に攻めるが、炎の衣に阻まれており剣は喜々として向かっている――で、相性が良さそうな澄玲が大技の準備をしていた。


「なら、澄玲のサポートだな」


 やることを理解した俺は、澄玲の元に駆け寄り婆さんに殺されないためにも咒を唱える。


「折々と巡れ――起きろ、四季」


 呼べば現れる愛刀。

 本物の四季を呼んだことで一気に世界が吹雪き出す。

 そしてそのまま俺は凍装を発動し、今俺が出せる全力で婆さんを迎え撃つ。


「呼びましたね、四季を――では参りましょう」


 答えるようにそう言い、炎の解放だけで皆を吹き飛ばした婆さん。もうこの人が理不尽の化身だろとそんな言葉が頭に過り、俺は引きながらも刀を受けた。

 起こるのは鍔迫り合い。

 身体能力を全力で強化したから受けれたが、少しでも強化が足りなければ俺は今ので吹き飛ばされていた。


「馬鹿力過ぎるだろ!?」

「これも嗜みですよ――そうだ刃、炎はこんな事も出来ます」


 放ち続ける冷気を纏う炎で溶かされながらも、僅かに残った感知能力が術の発動を告げてくる。それは俺の後ろにいる澄玲を狙ったものであり、普段の俺ならすぐには防げない。

 だけど、今の俺は四季を使っている。

 即ちこの世界に吹雪く雪は全て俺の支配下で、それを操ればまだこの温度の炎ぐらい――。


「防ぎますか、凄いですね」

「ふっ感謝する、そして準備は整った。さぁ僕達のステージの始まりさ!」


 あ、作戦何もたててないから聞いてない。

 と言いたかったが、そう言える雰囲気でもないので俺は彼女の技の発動を見送ることにした。


オケアノス大洋神のテアーター劇場!」

 

 発動した瞬間に地面全てに浅い水が敷かれる。

 それだけ見れば前に澄玲が使った技に見えたが、込められている霊力が明らかに別物だった。


「さぁ、反撃だよ皆。ボクに背中を預けるといい!」


 技が発動してすぐ、婆さん以外の全員の腕に水のリングが纏わり付く。

 どういう効果は分からないが、どう考えてもサポート寄りの技である事は確かだ。

 どういう効果はなのか気になるが、説明される時間は無いだろうし澄玲を信じて突っ込もう。


『これは霊力を回復する技さ、これをつけてる間皆の霊力は回復するし、念話も出来る優れものだよ。だからボクは指示に専念する――あとで褒めてね刃』

『凄いなこの技、いつの間に作ったんだ?』

『そうだろう! 君と一緒に戦えるように頑張ったんだー!』


 技の性能は理解したし、この技があれば戦略は練り放題だろう。

 作戦会議もいらず念話出来る相手となら連携し放題――かなりの変則技ナ気がしなくもないが、相手が相手だし使うに超したことはない。

 その他にも技の情報が念話で送られてきたが、この広がった水は盾にも矛にもなるらしく、澄玲の意志で自在に動くらしい。

 そして作戦がそのまま伝えられ、俺達はそれに従い婆さんに攻め込んだ。


「おや、連携の練度が上がってますね……なにしたんでしょうか?」


 星詠みではあるが、見鬼ではない婆さんはこの術の詳細を看破は出来ない。

 だからバレるまでは好きに戦えるだろう。

 攻める龍華と消えながらも結界で俺達を援護する雫、炎の攻撃は澄玲が防ぎメインアタッカーである俺達兄妹と亮で攻める。

 澄玲の指示の元何度攻めたか分からないが、婆さんの纏う炎の衣が少しずつ剥がれていくのが分かった。でもそこまで言ったが、既に俺等は限界。

 圧倒的な強者を前に戦い続けるのは無理があった。

 だけど、確実に削れてる――だから攻めるのは、


『――ッ今、合わせてくれ刃!』


 彼女が防御を捨てたこの瞬間だ。


『了解!』


 婆さんの真下から水柱が現れる。

 それは彼女を包み脱出する事を許さない。

 だけどそのままだったら炎で消し炭にされるので俺は後押しとして四季の力を全力で放つ。


「冬の陣――凍雪銀世界」


 流石に婆さんそのものを凍らせるわけにはいかないので、水柱だけを凍らせる。 

 そして完全に彼女を閉じ込めて、俺達は勝利を確信した。


「これで勝ち、だよな?」

「――いいえ刃、まだ私は倒れてませんよ?」


 声がする。

 氷の中から婆さんの声が、そして澄玲の術が蒸発し――薄紅色の刀身を持つ四季擬きが婆さんの手に握られていた。


「さあ、第弐ラウンドです。次は春で行きましょう」


 雷鳴が轟き、彼女の周りに様々な植物が生え出す。

 それら植物の根が俺等に矛先を定めて貫こうとしてくる。

 婆さんは見る限り全然消耗して無くて、別の属性を使い戦闘を続けようとしてきた。限界である俺達は、それに対抗する術がなく――このままだと蹂躙される。

 だけど、それはこの戦いを見届けている人に止められた。 


「やめろお袋、別の使うのは駄目だろ」

「昴? やっと盛り上がってきたところですよ?」

「久しぶりだろうからって張り切るな、見ろよ子供達が限界だ」


 どうやったか分からないが、婆さんの術を全て解除した父さんが彼女の前に立っていた。父さんの手には短刀が握られており、それで何かしたのは確かだろう。

 

「今日は切り上げだ」

「むぅ……まだやれますのに」

「それはアンタだけだろ、とりあえず飯にでもしようぜ?」

「……分かりました。そうだ皆、明日もまた戦いますよ。今度は春限定です」

「はしゃぐな、休ませてから聞けよ。ほら空間戻せ」


 そうして父さんのおかげか戦闘は続行されず、なんとかこの勝負は俺達の勝ち? で終わった。で……今日分かったことと言えば、戦闘狂の血って婆さんから流れていたかもしれないという事で――そして、それから三日間。婆さんの家に滞在することになったのだが……連日俺達は地獄のような戦闘を強いられる事になったのだ。

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