第59話:久しぶりの祖母の家


 皆が家に来て約三日、毎日鍛錬しながら富士の樹海のけものを狩るといった日常を繰り返していたある日の事だ。

 父さんが青い顔をしながら俺達を集めたのだ。


「なあ今から遠出するんだが……来てくれないか?」

 

 ヤバいぐらいに疲れてそうな顔で胃を抑える父親、何故そんな様子で遠出しようと思ったのか聞きたいが、切羽詰まってるみたいなので何があったか聞きにくい。


「えっと昴さんどうしたの?」

「悪いな龍華ちゃん、本当に緊急事態なんだ。一応拒否は出来るけど、刃は来てくれると助かる」

「……俺は確定なのか」

「お袋が呼んでくれって言ったんだよ、態度的に拒否は出来ない」


 あまりにも急な事態。

 数年……それも生まれてすぐ以来会ってない婆さんが一体何の用なのだろうか? 父さんの焦り様を見るに行かなきゃいけないのは分かるが、要件が分からない以上即答は出来なかった。


「刃のお婆さまって翠凰様よね、元は神無月に属してたっていう」

「流石にボクでも知ってる人だね、星詠みを得意とする最も九曜様に近い女性だ」

「それは挨拶しなければなりませんね」


 反応する女子軍。

 さらっと聞いたが、婆さんって神無月の所の人だったのか……それどころか、九曜様に近いっていう爆弾情報。詳しく聞きたいが俺と剣以外は知ってそうなので聞くのが恥ずかしい。


「行くのはいいけど、亮はどうする?」

「僕も行くよ、気になるしね」

「剣は?」

「私もお婆様に会いたいです!」


 というわけで全員で行く事になり、俺達は父さんが運転する車で何処かへ連れて行かれた。今だから分かる凄まじい練度の結界の森、それを進んで行くと昔にやってきた婆さんの家の前にやってきた。

 出迎えてくるのは前と同じ黒いスーツの女性、とりあえず父さんが対応してくれたけど、なんか俺達を見てぎょっとしていた。

 そのまま奥の部屋に案内され、俺達は婆さんが来るのを待つ。


「あら本当に暦の子達が集まってるのですね」

「呼べって言ったのはお袋だろ、驚くなよ」

「私は集まってる星を見ただけですので――それより久しぶりですね剣」

「はいお婆様、私強くなりました!」


 あれ……剣って婆さんに会ったことあるのか?

 記憶が正しければ俺達は赤ん坊の頃にしか此処に来たことないはずで……。


「刃は殆ど初めてね、順調に才能を伸ばしてるようで嬉しいですよ」

「あ、はい……」


 なんだろう凄くやりづらい。

 今更過ぎるが、彼女には神綺と九曜様の面影あるし……もっと言えば神綺達が成長したような姿なのだ。なんかそのせいで微妙というか不思議な感覚に襲われる。

 原作での彼女の行動を覚えてるからってのもあるが、神綺に似てるという点というのでなんか凄く。


「それと……出てきてくれますか、神綺様」

「やっぱりバレるのね、久しぶり翠凰」

「ええ、流石に刃が契約したのなら分かります」


 そして起こる異常事態、普段は人前に姿を現すつもりのない神綺が婆さんが声をかけた瞬間に出てきたのだ。俺の中から現れた少女に驚く亮と雫に澄玲、龍華は一度会ったことあるからか普通に敵意を剥き出しにしてた。


「十六夜家の祖霊の方はどうなりました?」

「ちゃんと持て成して帰って貰ったわよ、まあかなりびくびくしてたけどね」

「……それなら安心です」

「ええ、それで今日呼んだ訳は私かしら?」

「そうですね――本題は貴方の確認、それと刃を鍛えるためです」


 え、俺? ……いや確かに俺を絶対に連れてこいと父さんに伝えた以上、俺になにか用があるのは分かったいたけど、鍛えるって何?


「基本不干渉の貴女が刃を鍛えるの?」

「えぇ、刃に凶星が迫っているのを視てしまったので流石に放置は出来ませんから」

「お得意の星詠みね――じゃあ頼もうかしら、刃の術に関する力を鍛えるのなら貴女が最適だもの」


 トントン拍子で進んで行く話。

 神綺が決めた以上断るつもりはないが、婆さんが最適ってどういう事だ?

 確かに彼女は原作での剣の師匠の一人だ。冷遇していたとはいえ彼を刃と戦えるように鍛えた描写も残っている。でも、その際に使った術は炎や氷に雷と言った属性を持った式神を呼んだぐらい……確かに俺が将来的に使えるものだし鍛える人としては適任かもしれないけど――原作のシーン的にめっちゃスパルタなんだよな。


「なあお袋、暦の子達を呼んだ理由は何だ?」

「刃の影響か皆の星が変わったので気になったからですよ、私は九曜様より子供達の星詠みを任されていますので。ほら卯月の子の星……運命は変わったでしょう? それを直に視るためにも集まってたので呼んだだけです」

「成る程な――で、刃を鍛えるって言うのは……」

「本気です。この先刃を襲う凶星は、人の身でどうこう出来る者ではない、だから少しでも強くして生き残らせるのが私の役目ですから」



 婆さんの星詠みの力は異常だ。

 何が起こるかまでは分からないが何かが起こるという事だけはほぼ確実に当ててくる。この先の未来的に俺に待ってるものと言えば百獣夜行だが、それだったら彼女の言葉的に群れと表すはずで――何故か嫌な予感しかしなかった。


「そうだせっかくですし、子供達も一緒に鍛えますか? 刃と関わった故に手に入れた力、私はとても気になりますから」


 そうして俺を除く子供達に声をかける婆さん。

 婆さんの事を知っている彼女たち的に戦うのを渋っているようだが、一人だけ違った。


「ふっ受けて立とうじゃないか翠凰様! だけどボクは強いぞ?」

「ええ知ってます。他の皆さんはどうですか?」

「そこの馬鹿がやるならやるわ、それに刃のお婆さまの力は気になるの」

「挨拶だけのつもりですが、わたくしも戦いましょう。それで認めて貰います」


 女子達は澄玲のおかげかやる気を出して戦う事を決めたようだ。

 それで残る亮はと言うと。


「ボクもやる――夢の為にも」

「そうですか、なら決定ですね」


 そう、全員が意志を伝えると……婆さんが側に置いてあった扇子を持ちそれを開いて何かを唱えた。

 ――そして次の瞬間。

 景色が変わり場所が変わって星空の下に俺達は招待された。


「ここは私が九曜様から預かっている訓練場、さぁここで死合いましょうか」


 そう言った彼女の後ろには、一本の刀が浮かんでいた。

 それは見覚えのある一刀――俺が持つ四季にそっくりな刀であった。

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